助成金や補助金は返済不要で魅力的に見えますが、実際には申請の手間やコスト増、採択率の低さなど多くの落とし穴があります。
無理に申請すると、経営にとって逆効果になることも少なくありません。
この記事では、対象要件や制度一覧は他に譲り、助成金・補助金を利用する前に知っておくべき基礎知識、税務処理上の注意点、メリットとデメリットを整理し、経営に無理なく取り入れるためのポイントを解説します。

助成金・補助金の税務処理ルール
助成金は返済不要なため、恩恵も大きいですが税務処理を知らないと思わぬ課税となります。助成金は法人税の計算上は原則として益金算入です。設備投資関連などは圧縮記帳が認められるものもあります。
ただし、消費税は課税対象とならないことがほとんどです。
したがって、会社にとっては法人税等は課税されるが、消費税は課税されない、ということになります。
助成金と補助金の種類と違い
助成金は大きく分けると2種類で「経済産業省系のもの」と、「厚生労働省系のもの」です。
一般的には経済産業省系は“補助金”、厚生労働省系は“助成金”と呼ばれることが多いですが、法的に厳密な定義があるわけではなく、所管省庁ごとに呼び分けが異なる場合もありますが、本質的には同じものと考えれば良いと思います。
経済産業省系(成長支援・イノベーション促進)
経済産業省系のものは、ものづくり補助金や小規模事業者持続化補助金などのように事業の成長を促すため・イノベーションのためのものものというイメージです。
ただし、事業の成長やイノベーションはまだ「起こっていないこと」なので、これらについて計画に落とし込み、それを採択してもらう必要があるため、必ず貰えるとは限らないのは注意が必要です。
厚生労働省系(雇用維持・労働環境改善向け)
厚生労働省系はキャリアアップ助成金などのように、労働環境をよくする(雇用を維持したり・人材を育成したり)ためのものというイメージです。
労働環境を良くするための要件が比較的明確なため、要件さえキチンと満たしていれば貰える可能性は高いです。
補助金・助成金のメリットとデメリット
メリット|返済不要でキャッシュフローに有利
直接的なメリットは「返済不要」ということです。
補助金や助成金は借りたものでなく「貰ったもの」ですから、キャッシュフローに大きく有利な影響を与えます。
副次的な効果としては、イノベーションや労働環境の改善が進むため、業務効率や改善され、従業員の満足度が向上するなど、企業価値が向上します。
デメリット①手間とコストが圧倒的に増える
手間: 書類作成、証拠資料、事後報告
最も大きなデメリットは手間です。
補助金や助成金は、申請する必要があり、書類ベースで行うので、書類を作成し、証拠資料などを整える必要があります。
補助金や助成金をもらった後も、事業が正しく進んでいるか報告する義務もあり、手間は避けられません。
コスト増加: 助成金を得るために余計な雇用や設備投資をすると、本末転倒
補助金や助成金は、後払です。
イノベーションのため設備投資した、労働環境改善のために給料を上げたなどは、短期的に支出を増やします。
たとえば600万円の設備投資をしても、補助金は最大で400万円、しかも入金は半年以上先になるのが普通です。
また、労働環境の改善では給料を引き上げると、コスト増の状態が続いてしまいます。
デメリット②満額ではなく、採択率も低い
満額ではない: 補助率・助成率は1/4〜2/3
補助金は事業に必要なお金の満額を受け取れるものでなく、その種類によって補助率や助成率が定められています。
つまりこれらは、タダで事業するためのものでなく、既存の事業に「加速」をつけるためのものだと理解した方がいいでしょう。
採択率: 公表されているが低いものも多い
経済産業省系の補助金は、イノベーションとならる計画を立て、申請して、「採択」されればもらえますが、採択率が高くはありません。
例:「ものづくり補助金の採択率は直近で30%前後(公募要領より)
無理なく取れるものだけ取る(自己申請が前提)
補助金や助成金は、メリットも大きい反面、デメリットも大きいので、これをアテにした経営は身を滅ぼします。
事務負担軽減のため、代理申請のコンサル業者もいますが、補助金や助成金は必要なお金を満額受け取れるわけではないから、コンサルを使うとかなり高い確率で「費用だおれ」します。
申請や後処理を自社で行うと、その手間賃が補助金や助成金ということになりますから、実はそこまでコスパ・タイパのいいものでもありません。
自社で「無理せず」取り組める範囲の補助金や助成金を、「自己申請」をベースに利用するのが無難であり、あるべきかたちだと思います。

