住宅ローンを借りるべきか、と考えるときに、本能的に「怖さ」がブレーキをかけてしまいますが、住宅ローンそのものは設計次第で「怖さ」は無くなります。
家計で本当に怖いのは、キャッシュがショートすることです。企業であれ、家計であれ、経済主体が破綻するのはキャッシュが尽きた時だからです。
ですから、住宅ローンを借りるならば、キャッシュフローを悪化させない「設計」とすることが前提条件となります。

家計が借りれる唯一の借入=住宅ローン
家計は企業と違って、資金が必要となったときに借入で賄うことが出来ません。
家計独特の支出である教育費や老後資金も、借入で対処することはできず事前に準備するほかありません。
唯一の例外は「住宅ローン」です。
家計でできる借入は住宅ローン以外にありません(その他はリスク面から避けるべきで選択肢として挙がりません)から、キャッシュフローを悪化させない設計が、家計の安定や資産形成につながります。
企業に学ぶ「借入の本質」:家計にも応用できる資金戦略
企業は事業活動のために借入をしますが、その主な理由は「収入と支出の時期のずれを埋めるため」です。
モノを買って、売るという単純なモデルで考えると、モノを買ってから売れるまでにタイムラグがありますから、その間のお金(運転資金といいます)を戦略的に借入で埋めているわけです。
家計では短期的に見ると運転資金はほぼ不要ですが、長期的に見ると「収入がある時期」と「支出が上回る時期」にズレがあります。
典型的には、老後は収入よりも支出が増えてしまいがちです。
家計においても長期的に見ると収入と支出の時期がズレるため、それを埋めるのに住宅ローンを活用するのは理に適っています。
しかも、住宅ローンは現役時代にしか借りることが出来ませんから、現役時代に備えておくことが合理的です。
無借金主義がもたらす落とし穴
企業経営において無借金経営が賞賛されることがあります。
文字どおり、借金に頼らず経営をするという意味ですが、これは借金していないことが素晴らしいという意味ではありません。
経費の支払いや納税などをしたうえで、なお潤沢なキャッシュがあるので、借金の必要がないという状態であり、借りようと思えばいつでも借りられるし、その必要が無いくらい財務状態が安定している、という点で優れているということです。
一部の大手優良企業しか実現し得ない状態であり、家計において目指すのは現実的ではありません。
小規模な経営主体は、機動性に優れるものの、財務基盤は脆弱ですから、借入をしないという選択肢は事実上不可能だからです。
大手優良企業であれば、設備投資を手持ちのキャッシュで賄うことも可能でしょうが、小規模な企業や家計では、手持ちのキャッシュで設備投資などを行うと、キャッシュが枯渇します。
手持ちのキャッシュがなくなれば、小規模な経営主体のメリットである機動性すら発揮できなくなります。
中小企業や家計などの小規模な経営主体は、「借金しない」ではなく、「破綻しない仕組みを作る」(=キャッシュを枯渇させない)ことが重要なのです。
住宅ローンは「借り得」?3つのメリット
住宅ローンは以下3つのメリットもあります。
①と②は住宅ローン独特のもので、企業会計に比べても極めて有利ですし、③は政府の金融政策を考慮すれば、長期的には大きな差になります。
①万一に備える団信
団信(団体信用生命保険)を利用すると、債務者が死亡してローンが返せなくなった場合などに、ローン残高が免除されます。
(正確には生命保険金が住宅ローンを保有する金融機関に支払われる制度なので免除では無いのですが実態はほぼ同じです)
②利息が戻る住宅ローン控除
最も有名な住宅取得に対する税制優遇制度です。年末の住宅ローン残高の1%程度(上限あり)が一定の期間にわたって所得税・住民税から控除されます。
ローン残高が3,000万であれば30万円が所得税・住民税から控除(一定の制限あり)されますから、住宅ローンの金利負担が大きく軽減され、節税効果もあります。
③インフレに強い借金
これは全ての借入にあてはまることですが、インフレ時にはモノの価値は上がりますが、借入金は変動しません。
ほとんどの国の中央銀行は、長期的には緩やかなインフレ目標を設定していますから、その恩恵により、借入金は(長期的には)相対的に目減りします。
まとめ:住宅ローンは「戦略的な借入」
ダメな借金は、経済活動の失敗を穴埋めするもので、家計でいえば無駄遣いを穴埋めするような戦略性のない借金です。
住宅ローンは、家計における現役時代と引退後の資金ギャップを埋めるために行うのであれば、家計のキャッシュショートのリスクを下げるインフラ的な役割を果たします。
時期における資金ギャップを埋めるものでもあるから、借りられる時期は限られているので、借りられるうちに、正しく借りることが、家計の安定と老後の生活基盤をもたらします。