「全部経費で落とせた」はウソ?社長の勘違いに惑わされないために知っておくべきこと

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知人の社長が「〇〇を経費で落とした」のような話を耳にすると、「私は損してるんじゃないか?」とか、「そんなことはないだろうけど、もしかして?」みたいに心がざわめくことがあります。

しかしながら、そういった類の話はほぼ間違いですので、安心してください。

「全部経費で落とせた」は本当か?

知人の社長などから聞く、「全部経費で落ちた」系の話、高級時計だったり海外旅行だったり、ちょっと事業とは関係なさそうなものだったり。

税理士として、打合せの中で、「このような話を聞いたのですが」と、ご相談を受けることがあります。

大半の方は、「そんなことはないだろう」の確認のためになさることがほとんどです。「話を盛ってるんじゃないか?」と思っても、心はざわめいてしまいます。よく分かるはなしです。

事業に関係のある支出だけが経費

経費になるものは、「事業と関係のあるもの」だけですから、事業の種類によって経費の範囲は異なります。

とはいえ、一般常識とかけ離れたものではないため、「えっ」と思うようなもの(たとえば高級時計、宝石など)は経費にならないことがほとんどです。

社長のリテラリー不足が誤解を招く

経理が好きで好きでたまらないという社長さんはあまりいませんから、悪気なく勘違いしてしまうことは多いです。

経費になると勘違いしていたけれど、経理担当や顧問税理士が適正な処理に改めていた、というようなことも。

確信犯的に、無理なものを経費にしていれば「脱税」ですから、知人の社長などに話したりはしませんので、多くのケースでは勘違いが多いように感じます。

伝言ゲームは正確に伝わらない

経理を勘違いしている社長が、話す内容は(悪気なく)嘘や間違いが混ざっています。

それを又聞きで聞いて、のようになると、もはや当初の内容は原形をとどめていません。

大半の人は悪気はないのですが、人に話すときは誇張したり、面白おかしくしたりもしますから、結果として「〇〇を経費で落とした!」→「そんなはずないだろう?」となるわけです。

他社の「儲かっている風」の実態

他社が儲かっている、景気が良さそうだ、という話は、どうしても気になってしまいます。特に自社の調子が悪いときほど。

とはいえ、他社の業績は話し振りやなどからは分かりません。決算書を見て初めてわかるだけです。

決算前の利益調整で「演出」は可能

「大幅な赤字を黒字にする」などは不可能ですが、ある程度の範囲内であれば黒字・赤字は「操作」可能です。

決算が締まってからは操作はできませんが、決算が締まる前に、経費をたてて利益を減らしたり。

逆に、決算が締まる前に経費を削って利益を増やしたり。

もっと戦略的にやる会社であれば、期が始まるまでに役員報酬を利益に見合う金額に設定して、赤字にするという芸当も可能です。(正確な利益の読みができる前提ですが)

経営者がいう、「儲かってる」「儲かってない」はあてにならない。それを信じても仕方がないということです。

行列や店舗拡大と「利益」は別問題

飲食店で「行列がある」「予約が取りにくい」「新しいお店を出した」など、利益とは関係ない現象に過ぎないのですが、「儲かっているのかな」と感じてしまいがちです。

店内の席数を調整すれば行列はできるし、予約の枠を減らせば予約は取りにくくなる。

既存のお店だけでは利益が確保できないので、やぶれかぶれで新しいお店を出した、という飲食店もよくあります。

誰しも寂れたお店よりは流行っているお店のほうを好ましく思いますから、飲食業のように一般顧客に向けて「儲かっている風」の演出をすることは、悪いこととは言い切れません。

他業種でも、従業員や取引先に対するアピールも兼ねて、儲かっている風の演出を多かれ少なかれやっています。

演出を嫌う社長さんもおられますが、その会社が儲かってないかといえば、そうでもない。

あるいは、ホントに儲かってないから寂れている、という会社もあります。

行き過ぎた節税は身を滅ぼす

節税自慢も、心を惑わされます。

しかし、節税は自慢するものでもないので、気にしなくて大丈夫です。

無駄な税金を払わないことが原則

節税の基本は、利益を下げることでなく、無駄な税金を支払わないことです。

例えば、交通違反の罰金は経費になりませんが、こういった無駄を少なくしていく、というのがもっとも現実的です。

行き過ぎた節税が資金繰りを悪化させる理由

節税は、基本的に経費を増やして利益を減らすというものが多いため、お金が減ってしまいます。

企業活動を維持する源は、お金ですから、過剰な節税をしてお金がなくなってしまい、資金繰りに窮するという会社は枚挙にいとまがありません。

「法人税を払ってない自慢」は赤字の証かも

税金の大半は「利益」に課税されますから、赤字であれば、大きな税金はかかりません。

(消費税は預かっているだけなので、少しケースが異なりますが)

なので「法人税ほとんど払ってない!」というのは自慢でなく「赤字で儲かってません」ということでもあります。

融資が通らなくなれば本末転倒

行き過ぎた節税をすると、お金がなくなる。

赤字であれば、融資も受けづらくなる。(金融機関は利益から貸したお金や利息を回収しますから、利益の出ていない会社は基本的に相手にしてくれません)

お金がないから融資で、と考えても

赤字だから融資が受けられない。

融資のないなかでの中小企業経営は、かなりハードモードですから、いずれは身を滅ぼしてしまいます。

正しい判断軸を持つには

比較するのは「他社」でなく「自社の過去」

中小企業は個別性が強すぎるため、他社比較はあまり意味を持ちません。

他社と比較しても意味がないから、業績比較は必ず自社の過去や未来と比較するべきです。

真実は決算書のみに見える

話している本人は悪気がないことも多いのですが、嘘や誤解が混ざった情報が耳に入ってきます。

他社比較は意味がないうえに、間違った情報を信じてしまうと、迷子になってしまいます。

正しい情報は決算のなかにだけありますから、決算書をよく読んで、顧問税理士などに良く相談するのが無難です。

不安を感じたら顧問税理士に相談を

他社の社長の眉唾な武勇伝を聞いたときに、「えっ、そんなわけないだろう」と思うことこそがむしろ正常です。

人はどうしても、刺激の強い話に反応してしまいがちなので、仕方がないのですが。

「えっ」という話を聞いた時は、信頼できる他の社長や顧問税理士に、相談して安心を得る、というのが精神的安定を得るためには、もっとも有効です。