税理士が考える「社員10人くらいまでの企業の給料の決め方」

経営者の方で給料の決め方に悩んだことがないという人は、殆ど見かけません。

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基本的なこと
・無い袖は振れない
 
給料(人件費)は会社の支出の中でも1番目か2番めに大きなものですが、「固定費」ですので毎月ほぼ固定的に支払わなければなりません。ですから、無理のない金額で設定しないと高い人件費に苦しんで廃業に追い込まれるという事態にもなりかねません。 廃業すると従業員も給料をもらえないですから、「無い袖は振れない」ということを念頭に給料は設定します。

・経営者と従業員の感覚の違い
 
給料日というとお給料が貰える日というのが一般的な認識ですが、経営者となると180度変わります。経営者にとって給料日は「給料を支払わなければならない日」です。世間の認識が「給料が貰える日」であるということは遅配は許されないのです。
 さらに、従業員は給料の金額を額面ではなく手取り額で考えるのに対して、会社は額面ではなく実際の負担額で考えます。人を雇うと健康保険や厚生年金などのいわゆる社会保険料が発生しますし、もちろん自宅から会社に来るまでの交通費だって負担しなければなりません。会社や個人によって差がありますが、一般的には従業員は額面の7割程度の手取りで考えるのに対して、会社は額面に加えて社会保険料などのコストも負担するので額面の1.5倍程度の負担を考えます。
 そのことを理解している従業員は少ない(経験的にはほとんどいません)ので、税理士の観点からすれば「結構払ってるな−(人に優しい会社だな)」と思っても、従業員は「給料が少ない」と思っていることはよくあります。

・高い期待値を設定しない
 
従業員に高い期待値を設定すると失敗します。税理士の立場から見ていると、社長などの期待値が従業員の能力などよりも高い位置に設定されていることが多いです。その結果、「高い給料を払っているのの期待に応えてくれない」 となって、文句を言ったり給料を下げようとしたりします。従業員の立場からすれば精一杯やっているのですが、経営者の立場と従業員の立場の仕事のスタンスが違う以上、このような問題はどこと会社でも転がっています。
 社長が「従業員の能力はこんなもんだ」とある程度割りきってしまわないと精神的に辛いです。そうは言っても、従業員が期待値まで働いてくれないと会社が傾いてしまいますから、年に一度でも従業員と話合いの機会を持って仕事上の目標や会社がその人に期待することを具体的に数値として伝えるというのは必要でしょう。ただし、これも常日頃からやり過ぎると従業員から鬱陶しがられるのでうまくさじ加減を見ながらやるのが社長の度量ということになりましょう。

ベアしてもそんなに感謝されないが、ボーナスは効果大
 従業員と会社の間で、給料への考え方が違うというのは先に述べたとおりです。従業員は額面でなく「手取り額」で考えるので、ベアしてもそんなに感謝されてないです。ちなみにベアとはベースアップのことで毎年一回程度行われる基本給の昇給のことだとお考えください。 だからといって昇給しなくていいというわけでなく、無理しない程度にやってれば十分というのが実際のところでしょう。(大きくベアすると、社会保険にも大きく跳ね返りますが従業員は分かってくれませんから)
 従業員のモチベーションアップには、やはりボーナス(賞与)が大きいです。会社をやめようと思っていても賞与があれば思いとどまったり、賞与をもらうまで頑張ろうとなったりします。 基本給を控えめにしつつ、ボーナスを支給するというのは理にかなったやり方だと言えます。
 ボーナスに関しては、必ず支給されるものではないことも周知徹底しておくことも重要です。従業員のなかにはボーナスは必ず貰えるものだと勘違いしている人もいます。そうではなく、業績や働きぶりに応じて支給されるものであるから、支給されないこともあるということを理解させておくことでボーナス支給の効果・従業員の業績への関心や責任感も大きくなります。

期待はずれの従業員対策もボーナス
 従業員のなかには期待はずれもいますね。採用時の面接だけで全てがわかることはないので仕方のないことですが、基本給などを下げるのはなかなか難しいです。そこで、基本給を控えめにしつつボーナスで調整しておけば、期待はずれの従業員だった場合には翌年以降のボーナスを引下げて調整すればよいでしょう。(細かい問題は社労士などに相談するとして)
 逆に、想像以上に頑張ればボーナスを厚くつければいいですしね。 

引くものは引く、払うものは払う
 
信じられないことですが、遅刻や欠勤を平気で繰り返す問題社員も一定の割合でいます。 遅刻や欠勤の場合には、給料から差引くべきですし遠慮は無用です。逆に、近年問題となっているサービス残業も考慮しなければなりません。時効が2年ですから、従業員が仮に辞めても2年間は不安でビクビクするというのは精神衛生上良くないですし、払うべきものはしっかりと払いましょう。残業がどの程度、必要なのかも考慮した給料の設定をするべきなのですが、慣れていない社長などは従業員が「遅刻しない、有給を取らない、残業しない」というあり得ない前提で給料を考えている人がいます。そんな人間はいません(笑)

複雑な評価システムは効果なし
 従業員数はある程度大きな会社になると、評価の公平性の観点などから人事評価のシステムを利用するのは有効ですが、 社員が10人位までの会社であれば複雑なシステムは不要です。社員が10人位までの会社は、社長も従業員と一緒に働くことになりますから、従業員の働きぶりはある程度把握できるので(社長の目が届く)、社長の肌感覚で給料を決めるほうが合理性が高いのです。
 社長は肌感覚として、「このくらいの給料ならこのくらいの働きぶりが必要」 というのを把握していますから、そのあたりに着地するように決めます。

給料の決め方のセオリー
まず社長が思う従業員への給料の妥当額を考えます。 
②あまり業界平均や似たような社歴の社員と 隔たりがあれば問題なので、そのあたりは税理士や社労士と相談しながら調整します。基本給を控えめにしつつ手当などで調整をして額面が先ほどの金額になるように設定します。(社会保険料などのコストも考慮します)
③従業員のモチベーションアップはボーナスなので、ボーナスも織り込んで考えます。資金繰りなどもよく考えます。
 ※ボーナス図らなず支給するものではないことを周知徹底しておくこと(できるだけ支給したほうが良いのですが) 
④給料から引くべきものは引く、支払うべきものは支払う
 ※従業員も人間ですから、遅刻したり・有給をとったり・残業したり・早退したりしますので、それらも織り込む必要があります。