「売上は大きければ大きいほど良い」は、必ずしも真実ではありません。
売上が大きくなれば、固定費や運転資金も増加し、経営のリスクも高まります。
上場などを目指すならば売上や利益を拡大させなければなりませんが、多くの中小企業にとっては、上場は現実的ではありません。
ある程度のところで売上を敢えて止めておくという戦略は、中小企業の現実的な生存戦略です。

なぜ「上場しない企業」は売上を追わなくてよいのか?
上場を目指すならば一定以上の規模が必要になりますので、売上拡大が必須です。
しかし、大半の中小企業にとって上場は現実的ではありませんから、「売上の拡大=リスク増大」という側面のほうが強いです。
売上が大きくなればなるほど、固定費や運転資金が増大し、資金繰りの難易度も格段に増します。
組織が肥大化すると、ガバナンス面でもメリットもありますがデメリットも大きくなります。
上場を目指したり、M&Aなどにより事業を売却することを目的としないなら、「規模をとること」はいたずらにリスクを高めるだけです。
売上3億に立ちはだかる「3つの壁」
中小企業において、「ちょうどよい」売上はおよそ5,000万〜3億円です。
業種や業態、従業員数によりますがこの辺りが以下の理由から「ちょうどよい」といえます。
組織とマネジメントの限界
従業員が10人を超えてくると、社長の目の届かない領域が増えてきます。
組織の歪みが、業務の非効率化やブラックボックス化を招き、属人化されてしまいます。(横領なども起こりやすくなる)
これ以上拡大しようとすると、中間管理職が必要となり、そこの負担が大きくなるし、その人の能力に業績が左右されてしまいます。
(中小企業で能力のある中間管理職を確保するのは大変です)
経理・会計の限界
売上が3億円近くになると、現金主義的な管理では損益が読めなくなります。
多くの中小企業では、完全な発生主義は経理担当者の負担が大きいため、期中現金主義的な手法を用いています。
ところが3億近くの売上になると、売掛・未収・買掛・未払などが大きくなりすぎて、厳密な管理が必要となります。
これらを読み違えてしまうと、資金ショートや予想外な多額の納税に繋がりますから、経理面での整備が必要とされます。
中小企業で能力のある経理担当者を見つけるのはかなり大変です。
資金繰りの限界と融資リスク
売上が3億円近くになると、毎月に扱うお金も2,000万〜5,000万程度となります。
このあたりの金額になると、資金繰りも難しく、融資の難易度も上がります。
資金繰りは、いったん後手を踏むと、半永久的に後手を踏み続けることになりますが、後手を踏みやすい領域です。
そして、後手を踏めば、融資(借入)で対応となりますが、なまじ金額が大きいだけに、融資の難易度も高いし、借りることが出来たとしても、利息負担が大きく、返済のため資金繰りは、ますます苦しくなる。
借入での対応も一時的には有効ですが、利息負担と信用枠の消耗という副作用を伴います。
一度後手に回ると、「選択肢のない経営」に陥る危険があるのです。
あえて“3億で止める”という経営設計
経営の最大の目標は「持続させること」ですから、そのためにリスクを下げるとすると、売上を3億(これはMAXで、業種によっては1億程度)で“止めておく”のは、有効な戦略の一つです。
ここで止めておけば、社長の目も届きますし、意思決定のスピードも維持できます。中小企業の最大メリットである「機動的な意思決定」です。
逆説的ですが、利益率を重視して、少数精鋭+外注でまわす体制なら、この辺りが規模の限界です。
限界を越えなければ、会計や税務、資金繰り面でも余裕がありますし、採用でもそこまで苦労しません。
まとめ:売上3億円は「ちょうどいい経営」の臨界点
上場を目指すなどが前提でなければ、経営の目標(言い換えれば成功)は続けられること。
売上3億は、中小企業のメリットを残しつつ、社長主体でリスクをコントロールできる限界点。
だからこそ、突っ走るのでなく、あえて止めておくこと、成長を否定するのではなく、“成長させない”という判断を持てるかどうかが、これからの経営者の力量かもしれません。