近年の人手不足により、中小企業が思うように人を採用することは難しくなっています。
しかし、小規模企業にとっては、人を雇えないことが必ずしもマイナスとは限りません。むしろ、人を雇わない経営を前提にした方が、固定費を抑え、資金繰りの自由度を保ちやすいケースもあります。
人を雇わない経営とは、社長がすべてを一人で抱え込む経営ではありません。条件に合う人材がいれば雇っても構いませんし、必要に応じて外注や外部ブレーンを活用すればよいのです。
大切なのは、無軌道に人を増やすのではなく、少数精鋭で回る会社の形をつくることです。
この記事では、人を雇わない経営が小規模企業の資金繰りに有利な理由と、社長がすべてを抱え込まないための考え方を整理します。

人が集まらないのは中小企業の構造的課題
労働人口の減少、大企業との待遇格差の拡大、働き方や価値観の多様化により中小企業に人材が集まりにくくなっています。
求職者は安定、裁量の広さ、リモートなどを求めていますから、大企業に比べて立ち遅れている中小企業に人が集まりにくくなっています。
経営者の責任ではなく、構造的にそうなっているのです。
中小企業が人を雇うときに抱える4つのリスク
首尾よく人を雇うことが出来ても、それはそれでリスクが大きいです。
解雇が難しい(法的に制限が強い)
日本の法律は労働者に有利ですので、簡単には解雇することができません。無能を理由に解雇するというのはかなり難しいです。
教育コストが高い、属人化しやすい
いきなり即戦力で働ける人材はほとんどいません。特に中小企業は業務が属人化しやすいため、教えるのに時間もかかるし、教えたとしても属人化しやすくなるというジレンマを抱えます。
辞められるとダメージが大きく、対応が後手になりやすい
大企業と違って、中小企業は余剰人員を抱える余力がありませんから、社員の退職はダメージが大きい。いわゆる「チェンジコスト」が高くついてしまいますし、対応が後手に回りがちです。
労務トラブルや情報流出リスクも上昇
中小企業に限った話ではありませんが、人が増えれば人事労務系のトラブルが増えるし、情報流出リスクも上がります。
人を雇うと増える実務とコストの壁
給与計算、勤怠管理、社保手続、年末調整
人が増えると、そこにかかる事務負担も大きくなります。毎月の給与計算と勤怠管理。源泉所得税や住民税の納付。入社、退職、給与の変更などに伴う社会保険事務。
賞与の計算、年末調整も意外と確認することも多く、手間もかかります。
社会保険料は給与の約15%を会社が負担
社会保険料の負担が大きいことも見逃せません。社会保険料は給料(厳密にいえば標準報酬月額…社会保険計算用の給料)の約15%が会社負担となります。
「管理業務の壁」は予想以上に高い
給与計算などは毎月決まった時期に行わなければならず、労働者にとって給料日は単なる「貰える日」ですが、会社にとっては「支払う日+準備を整える期日」となります。
しかも、処理は適正になされて当然、間違えるとトラブルになりますから、担当者の負担はかなりのものです。
人を雇わず外注するという選択肢の合理性
社員は会社への忠誠心が高ければ、まだ使いようがあるのですが、近年はそれらも薄まっています。
そうなると、一部の業務は外注化することも合理性があります。人を雇わず、雇うとしても最小限にし、その他の業務は外注にすると以下のようなメリットがあります。
「やった分」だけ払えば良い
給料のように毎月定額でなく、「やった分」だけ、つまり成果に合わせて支払うのが外注費です。
給料だと、やらせる仕事が「ない」ときにも、給料は発生しますから、外注費のほうが使い方によっては合理的です。
会計的には、「固定費」を減らして「変動費」にするというメリットです。
仕入税額控除が可能(給与は非課税=控除不可)
中小企業の経営において、頭の痛い税金が「消費税」です。利益が出ていなくても、払わないといけないケースがあるから資金繰りのネックになりやすいというのが大きな理由です。
外注費は消費税の仕入税額控除を利用できるので、計算方法にもよりますが、消費税を引き下げる効果があります。
(給与は消費税が含まれていないので、そのような効果はありません)
社会保険料不要
外注は社員でありませんから、社会保険料が不要です。社会保険料の負担が減るばかりか、意外と面倒な社会保険関係事務の負担も減らせます。
間接的に、給料計算の事務負担も減ります。
外注のデメリットには「設計」で対応する
最大のネックですが、現実的な対処としては以下のようになります。(設計で対応するのがポイントです)
品質
外注先の選別や契約により対応可能です。内製化であっても品質に問題が出ることはありますから、管理体制などをどう構築するかでしょう。
ノウハウが残らない
ノウハウを要するような業務のみ自社で行う、ということになりますが、自社で行っても業務が属人化する懸念は拭えませんので、業務を標準化することと、自社でのチェックなどを入れるなどの対策が必要でしょう。
「人を雇わない経営」こそ外部ブレーンの活用が重要
人を雇わない経営とは、社長がすべてを一人で抱え込む経営ではありません。
また、従業員を雇うこと自体が悪いという意味でもありません。
条件面で折り合いがつき、会社にとって必要な人材であれば、従業員を雇う選択肢も当然あります。
ただし、小規模企業が無軌道に人を増やすと、人件費や社会保険料などの固定費が重くなり、資金繰りの自由度が下がります。
そのため、「人を増やせば解決する」と考えるのではなく、まずは少数精鋭で回せる会社の形を考えることが重要です。
少数精鋭で経営するからこそ、すべてを会社の中で抱え込む必要はありません。
税務、資金繰り、労務、IT、集客、法務など、専門性が必要な分野については、外部ブレーンを活用する方が合理的です。
外部ブレーンは、必ずしも顧問契約である必要はありません。必要なときにスポットで相談できる相手でも構いません。
人を雇わない経営の大きなメリットは、固定費を抑えられることと、経営判断の機動性を保てることです。
しかし、機動性があるだけでは十分ではありません。判断そのものが間違っていれば、早く動けることがかえってリスクになる場合もあります。
だからこそ、困ったときに相談できる外部ブレーンの存在が重要になります。
相談できる相手がいれば、判断に根拠を持ちやすくなります。
自分だけで判断するよりも、リスクに気づきやすくなります。
また、第三者の視点が入ることで、経営者自身も自信を持って意思決定しやすくなります。
人を雇わない経営は、「誰にも頼らない経営」ではありません。
むしろ、社内に人を増やさないからこそ、必要な専門知識を外部から取り入れる経営だと考えるべきです。



