「税理士事務所に入ってから何を勉強すればいいかわからない」そんな新人職員の方へ。多くの会計事務所では手厚い研修は用意されていませんが、だからこそ自力で身につける姿勢が求められます。本記事では、実務経験をもとに新人が最低限おさえておくべき勉強法を紹介します。

税理士事務所では手取り足取り教えてくれない理由
税理士事務所・会計事務所は「研修システム」が確立しているとは言い難いのが現状です。
大半の事務所は所長も合わせて職員数が5人未満(少人数のほうが利益率が良いということもありますし、管理もしやすい)ですから、人事研修にお金も時間もかけられないし、それ以上の規模の大きな事務所になってくると仕事が忙しくて、研修をしっかりやってる暇がないというのもあるかもしれません。
(そもそも、税理士事務所に勤めている人は受験から離れて長い人が多いので、税理士受験生などがどのくらいの知識レベルに有るのかってのを把握できてないというのが大きいでしょう。)
どっちにしろ、税理士事務所に入った職員さんは、先輩職員に教わるか、自分で調べるかしかありません。ただ、先輩職員もそれぞれ仕事を抱えていますので、1から10まで丁寧に教えてくれることはありません。
ですから、税理士事務所(会計事務所)がどのようなことをしているのかを事前に知っておき、自分に不足する知識を最低限のレベルまでは引き上げる方法を見つけておくことは重要です。
徒弟制の名残?会計事務所の文化に注意
2年間の実務経験が無いと税理士として登録出来ないという事情もあって、徒弟制度的な雰囲気が残っている会計事務所も少なくありません。
試算表や申告書を手書きで作成していたような昔は、税理士や会計事務所の仕事は職人的な性格も強く帯びていたので、そういった徒弟制度的なことがあったのかもしれません。
就職活動をされる時は、その辺りも気をつけて、過度に徒弟制度の名残が残っていないかは確認されるべきでしょう。(所長か管理職が前時代的なので、違和感を感じたら要注意です)
勉強の第一歩は「本」で業務全体をつかむこと
まず、税理士の業界(=会計事務所)がどんなところなのかを知っておくべきでしょう。
かつては、「会計事務所の仕事がわかる本」が参考になりました。
ただ、近年は類書も出ていますから新しいほうが情報も新しくなっていますので、似たような本であれば問題ないかもしれません。
戦術の本は、会計事務所の概要(業態・どんな人が働いているのか・顧客はどのような人か)から始まり、1年間の時系列ごとに業務内容(1年間の業務フロー)・日常業務の内容(決算申告・記帳代行・給与計算など)の解説を中心に、その他周辺業務(税務調査立ち会いなど)・周辺知識(印紙税・議事録など)についても紹介がされています。会計事務所の業務内容が一通りカバーされています。
実務経験が豊富な方が執筆されているので、過不足なく書かれているので実務未経験者でも大変わかりやすいです。
世の中の大半のことって、知らないと重苦しく感じるけど、実態を知ってしまえばたいしたことないってのが実情ですから、この本で知っておくだけで気の持ちようや取り組み方が変わるはずです。
個人的な意見としては著者の考え方が若干古臭いと否めない面もあります。(いい悪いの問題でなく世代や時代背景から起因する面もあるのでしょう。)辛抱して勤めろとか。そのあたりは自分なりの解釈でいいんじゃないでしょうか。
税理士試験だけでは不十分?実務とのギャップ
実は、税理士事務所に勤めている人間のすべてが税理士というわけでもありません。もっと言えば、受験学校と呼ばれるところ(TACとかですね)でしっかり勉強したという人も全員とは言えません。
きつい言い方になりますが、受験学校を挫折してしまった人も多くいます。(これは、業界内の人間でないと知らないことなんじゃないでしょうか。)
ですので、受験学校で真剣に勉強をして受験レベルにまで達していれば、その知識は役立ちます。科目合格をしていれば、その科目についての知識は十分でしょう。
あとは、実務のツボ(試験勉強と実務のギャップのようなもの)を抑えておけば、しっかり対応出来ます。
実務のツボを抑えるには、経理学校の実務講座がおすすめです。
実務に効く!経理学校の実務講座の活用
TAC等の経理学校が実施している実務講座ですね。税理士試験の勉強はやっていたけれど、実務が未経験なので・経験が浅いので・受験科目としては使っていないので…心配だという方に向けて実施されている講座です。
私自身も、税理士試験で受験していない科目についてはこれらでフォローしました。実務に必要な知識はほぼカバーしているので安心です。
インターネットなどでも視聴できるので、夜間や休日等を利用しながら業務知識をキャッチアップしましょう。(さすがに勤務時間に勉強するというのは駄目でしょう)
新人が気をつけたい考え方・姿勢
税理士業界のあらましを知り、受験学校で知識を得れば基本的な業務はこなせます。
ただ、税理士の仕事は相手あっての仕事なので、次のようなことは意識しておいたほうがいいでしょう。
相手のレベルにあわせる
専門用語ばっかり使ってると、意味が通じないです。出来るだけ、税務や会計を知らない人にも分かるように話す練習をしましょう。専門用語を全く使わないのは不可能なんですが、相手の立場になって考えることは必要です。
相手に100%完璧に伝えるというのはほぼ無理なんですが、最低限ここまでは共通認識として持っておいてほしいってポイントまで、どう伝えるのか?言葉も工夫が必要だし、数字の羅列でわかりづらければ資料作りも工夫が必要でしょう。
意外とやっている人は少ないので、差が付きやすいポイントだと思います。
税理士の守備範囲外は他士業へ
税理士事務所に勤めていますと、税理士の守備範囲外の仕事も捌かないといけない場面が出てきます。(クライアントは税務だけを聞いてくるとは限りません。)
もちろん、自分ですると法律違反になるものもありますので、例えば…登記等であれば司法書士さんに・就業規則等は社会保険労務士さんにといった具合に他の専門家にお願いすることになります。
ただ、登記を司法書士さんにお願いするにしても、内容を全く知らずに丸投げって訳にはいきません。ごく初歩的なことは勉強しておいて損はないでしょう。
荒技として、自分が司法書士の資格も取得するという方法もあります。いわゆるダブルライセンスですね。(個人的には、司法書士の資格をとるために勉強するより、司法書士の友達を作る方が負担は少ないとおもいます。)
税理士事務所は日々勉強
税理士事務所に勤めている限り(税理士になっても)、勉強は付いて回ります。専門職というのは常に勉強しなければならない仕事です。
税法は毎年改正されますし、税法以外の知識も貯えておかねばクライアントのニーズに応えられません。
税理士事務所に初めて就職された方は、分からないことだらけで大変かとは思いますが、ある程度から先の領域は、自分なりの勉強の仕方を確立することが最も大事です。