起業すると会社を大きくしていきたいと思うものですが、規模を追わないほうが幸せということもあります。
時代とともに経理も変わる
経理や会計というものは、会社の実態を知らせるためのものです。ですから、時代が変わるとともに経理や会計も変わってきています。
たとえば、経済が右肩上がりの時代は「売上を上げる会社がいい会社だ」と考えられていたので、「損益計算書」という書類が重視されていました。
ところが、経済が右肩上がりでなくなってくると「会社の価値が重要だ」と考えるように変わり、「貸借対照表」という書類が重視されるように変わりました。
いずれも昔からあった書類なのですが、重視される書類も変わっています。売上をたくさん上げるのも大事ですが、右肩上がりで売上を上げるのは難しく、会社の価値(利益やその累積である純資産)を高めていくことの方へシフトしているわけです。
規模を追うのが難しい理由
昔どこかの政治家が「政治は力(ちから)、力は数、数はカネ」といってましたが、会社で言えば「会社は売上、売上は仕事量、仕事量は従業員数」って感じでしょうか。
売上をガンガン上げていくには、取引量(仕事量)を増やしていけばいいのですが、取引量を増やすには人を増やす必要があります。
右肩上がりの時代は、人手も右肩上がりだったので可能だった側面もあるわけで、いま人手を増やすのはなかなか大変です。
当時と今とでは、経理や会計が変わっていることが示している通り、状況(時代背景)が違います。
・社会保険料
会社の場合、社会保険を考えなければなりません。怪我や病気をして病院などでお世話になった際に一定の医療費を負担してくれる健康保険、年齢を重ねて働けなくなった際に生活の糧として受け取れる年金、これらはただで貰えるわけでなく、社会保険料として支払うわけです。
社会保険料は、従業員と会社が折半して負担します。
逆に言えば、会社は従業員の給料以外にも社会保険料を負担しなければなりません。
現状で、それぞれの負担は給料額面の約14%程度ですが、年々その負担は高まっています。
人手が右肩上がりに増えているときは、社会保険料もそこまで大きな負担ではなかったのですが、人手が減っている現状では一人あたりの負担は大きくならざるを得ません。
そう考えると、人を雇うための「コスト」が昔よりも格段に増しています。(ちなみに人を雇い給料を上げていくと、一定の助成金などを受け取ることができますが、それが会社にとっていいのかは慎重に検討しなければなりません。個人的には、助成金とするよりも社会保険料自体を安くすべきだと思いますが…)
・採用コスト、人手不足
人を採用するためには、採用コストがかかります。
人手が右肩上がりに増えている時代には、バイトなども張り紙だけで見つけられたりハローワークに求人を出せば「それなりの」人材が確保できたものでしたが、今の時代ではなかなか人を確保するのも大変です。
求人広告をだしても、なかなか人が集まらないということもありますし、人が集まったとしても「いい人材」かという問題もあります。(バイトテロみたいな問題もあります…)
ブラックで不当に安い人件費なので、人がすぐに辞めてしまうというのは自業自得といえるのですが、商売である以上、その人の仕事」に見合った給料にしなければなりません。(無い袖は振れないということで…)
・メンタルヘルス、人間関係
近年は業務の「量」が増え、多様化かつ高度化している影響から、過剰なストレスにさらされている人が多いです。
過剰なストレスがもとで、メンタルに不調をきたす人も。
メンタルが不調、最悪壊れてしまった場合、会社としての対応も問われます。
人間関係の不調などで、職場の空気が悪くなったり、あるいは(まれですが)暴力沙汰になったりすることもあるでしょう。
商売である以上、利益目標を達成しなければならないわけですが、かといって過剰な利益要求や業務ノルマを従業員に課すとメンタルに不具合を抱えてしまうことも。人である以上、限界がありますから、その匙加減は非常に難しくなっています。
・薄利多売、価格競争に巻き込まれる
売上を規模を追おうとして、薄利多売に走るとさらに危険です。
業務の量は増大しているにもかかわらず、利益が薄いということはますます業務の量は増えていきます。
人手不足のなか、薄利多売に走ると、お客は一時的に得をするかも知れませんが、商品やサービスを安定して享受できなくなり、会社は体力がなくなって潰れてしまい、誰も得をしません。
・上場も難しい
規模を追いかける最終地点の一つは「上場」です。起業すると、上場を目指して(たしかに上場すると創業者は莫大な利益が手に入ることもあります)、上場できるのは「ほんの」一握りです。
会社の株式は、非上場の場合は会社が認めた人しか買えないという仕組みになっています。上場は、株式を市場で売買できるようにすることです。これによって、融資などによらずお金を調達できるようになるのですが…
上場すると会社と利害関係を持つ人が飛躍的に増えますから、会社をより厳密に縛るルールが必要になります。
厳密なルールを守るためにはさらにお金が必要になり、また規模を追わなければならない…というシナリオです。
上場を勧めるのは、上場を目指すと儲かるコンサルとかそういった人たちであって、上場にメリットを感じないのであれば無理に目指さなくてもいいでしょう。
規模を追わなくてもやりようはある
会社を維持していくためには売上は絶対必要ですが、あまり多くを求めすぎても先に述べたように大変です。
売上を追いかけ始めると、輪っかの中を走るラットのように立ち止まれませんから、ときどき「立ち止まって」考えるということから始めることが大事でしょう。
上場を目指さない小から中規模のビジネスであれば、固定費を上げる要因をなるべく減らすことで、売上を追いかけざるを得ないという状況を避けることができるでしょう。そもそも、ラットの輪っかに入らない。
人を雇うにしても、社会保険料などを支払わなくてもいいように調整するとか(なるべく少なくする)、大きな固定資産設備(リース含む)は保有しない、採算不明な広告は控える(業者作成のHP)、必要以上の保険加入は避ける…
事業を維持するための売上は絶対必要なのですが、多くの経営者の方は預金通帳の残高で安心したり不安になったりするので、預金通帳を減らす要因である固定費のうち不必要なもの減らすだけでも、売上を追いかけるという呪縛から開放されるのではないでしょうか。