税理士(会計事務所)がどのような仕事をしているのか?は、かつては内側の人間しか知り得ないことでしたが、それを扱う書籍などもいくつか出てきて、若干は知られるようになってきました。
ただ、どれも税理士試験を勉強した人のレベルを少し読みたがっているような面もあるので、少し私見を交えつつ、簡潔にまとめてみました。
会計データの(作成)チェック
簿記のルールに従って作成された会社の取引データを「会計データ」といいます。
かつては紙に手書きでデータの集計を行なっていたのですが、現在ではパソコン上で専用ソフトを利用して作業を行います。
会計データは、会社が作る場合もあれば、会計事務所が代行して作成する場合もありますが、いずれにせよデータをまとめたものを定期的にチェックし、税務的に正しいか検討し、税務調査などのために書類を整備したり、データをまとめたものをもとに税額の予測や資金繰り対策などを考えます。
簿記などの会計の知識や、法人税や消費税などの税務の知識だけでなく、社会保険など労務の知識や、その会社の業種特有の事情などを理解する力が必要とされるため、クライアントとのコミュニケーションが重要です。
クライアントを訪問
上記に関連して、会計事務所のクライアントは中小企業や個人事業主ですが、これらの方に代わって税務申告を行います。
その前段階として、一定の期間ごとに税務申告のもととなるデータを取りまとめます。
このデータのやり取りは、さまざまな方法があります。クライアントの事業所を直接訪ねて、打ち合わせを兼ねてデータを受け取ったり、直接訪問はせずメールやスキャンを中心としたやりとりの場合などがあります。
こうしたやりとりの中で、クライアントから質問を受けたり要望が出たりするので、それらについて調査検討をして回答を出したり、提案をしたりということもします。数日で結論の出ることもあれば、継続的に取り組む課題もあります。
税務申告(決算)
会計事務所のクライアントである中小企業や個人事業主にかかる大きな税金は、法人税や所得税、消費税ですが、これらは納税する側が自身で計算して納めることと決められています。
しかしながら、クライアントは本業に忙しく、また資金繰りや税務リスクまで深く検討した申告をするには専門的な知識や技術を要するため、税理士(会計事務所)のサポートを受けるわけです。
クライアントからすれば、決算申告は年に一度ですが、税理士(会計事務所)からすればクライアントの数だけ決算申告があり、それら一件一件を確実に正確にそして期限を守って処理していかなければならないため、税理士(会計事務所)の最も大きな業務の一つと言えるでしょう。
年末調整など
決算以外にも、税に関わる業務はあり、代表的なものは「年末調整」でしょう。
従業員など人を雇用すると、彼らに支払う給料から所得税を天引きしなければなりません。
天引きした所得税(源泉所得税)は、一定の期日まで(原則は翌月10日まで)に収める義務があります。
従業員からすれば、毎月の給料(場合によってはボーナスも)から所得税が天引きされるわけですが、大抵は「天引きした金額合計」と「その人のその年分の所得税」とは一致しません。
給料から天引きする金額は概算だからです。
これを年の最後に一致させる作業が年末調整で、当然のことながら税の知識が必要なため税理士(会計事務所)がサポートします。
年末調整した結果など、会社のその年分の経営活動の結果は、一定の調書にまとめたうえで、税務署や役所に提出しなければなりません。
これを法定調書といい、税理士(会計事務所)がサポートすることが多いです。(契約内容によっては、税理士側でサポートしないこともあります)
融資のサポート
税理士(会計事務所)のクライアントである中小企業や個人事業主は、その主な資金調達の方法が融資です。
銀行などからお金を借りることを融資といいますが、近年の融資においては、会社の決算書などに記載された数値をもとに可否を決定することが多いため、会社の決算に大きく関わる税理士(会計事務所)も、融資のサポートを行います。
直接的に融資の手続代行をするわけではなく、融資に必要な書類などの一部を取りまとめたりという形でのサポートです。
会社の数値目標を書面に落とし込んだものを「事業計画書」といいますが、融資においても「事業計画書」を求められることもあり、会社の内容を熟知している税理士(会計事務所)は、その作成をサポートします。
登記の管理など
会社はルールに従って運営されますが、運営の主体となっての物事を決めるのは株主総会(会社の形態によっては取締役会も)です。
株主総会で決められたことは、大事なことですので、「議事録」として残しておかないと、揉め事のタネとなりますので、その作成をサポートしたり、役員の改選に伴う登記の案内をサポートしたりもします。ただし、あくまで副次的な業務なので、税理士事務所におんぶにだっこでは行けないと思われます。
一年のスパンでスケジュールは回っていく
税理士(会計事務所)の業務は、一年のスパンでスケジュールが回っていきます。
先ほど述べた、年末調整などのように一年の特定の時期にしなければならない業務が幾つかあるためです。
そのため、税理士(会計事務所)志望の人やクライアントは、いつどのような業務があるのかを知っておくと、物事がスムーズです。
税理士(会計事務所)によっては、業務が集中する時期には、決算の依頼を断らざるを得ないという事態もありますので。
ちなみに…
1月は、年末調整などの結果を受けて「法定調書」と呼ばれる書類の作成提出を行なっています。
2月3月は、個人の所得税等の確定申告時期。
4月は、少し落ち着く時期ではあるのですが、税制改正の詳細などがハッキリとする時期でもあるため、税制改正の研究などに追われています。
5月は、3月決算の法人が多いため、その申告が集中します。稼働日が少ないという事情もあり、時間に追われている事務所も多いようです。
6月〜8月ごろは比較的、業務が落ち着くのですが、税理士(会計事務所)によっては、この時期に決算を多く抱えている場合もあるため、税理士(会計事務所)によって事情は様々です。
9月10月11月は、年末に向けて徐々に業務のボリュームが増えてくる時期。
なお、日本の会社は「3」の倍数月を決算とする会社が多いので、その二ヶ月後の業務は多くなりがちです。
12月は年末調整。準備は11月くらいから始めますので、冬は忙しい、というのは間違いなさそうです。
ちなみに税理士事務所と会計事務所は同じもの
「税理士事務所」と「会計事務所」これらの名前が混在していて、なにか違いがあるのかと疑問を持つこともありますが、やってることは同じです。
世の中には理屈っぽい人がいて、特にこの業界は理屈に凝り固まった人が多いので、そういった人たちには違いがあるのかもしれませんが、依頼者側(クライアント)からすれば、どちらも同じことです。
ちなみに、「税理士法人」と「税理士事務所」も同じことです。一般的には、税理士法人の方が「法人」なだけにしっかりしてそうとかのイメージが想起されますが、従来の税理士事務所を改組したものであることが殆どであり、その実態は同じです。肩書にうるさい日本人ならではといえば、それまでですが。