相談:贈与税を回避して子や孫に財産を残す

税理士やってると必ず聞かれるのがこれ、「贈与税を回避する方法」です。こういうスキームって条件整備が重要です。楽して得するなんて都合のいい話はないんですが…

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贈与税とは

贈与税は相続税を補完するために設けられた税金です。

 

相続税は人が死んだ段階で所有していた財産に対して課税されます。もちろん、死んだ人は税金を収められないので財産をもらった人が税金を支払います。

 

ポイントは死んだ段階で持っていた財産に対して課税されるってことですね。つまり………「死ぬ前に財産を別の人に渡してしまえば」相続税は課税されないことになります。(要するに生きてる間に財産を別人に移転するってことです。)

 

でも、国側もこうなることはお見通しなんですね。生きている人同士での財産の無償移転のことを「贈与」といいますが、贈与を行うと贈与で財産を取得した人に対して「贈与税」が課税されるのです。つまり相続税逃れ防止のための制度なんです。だから、相続税に比べて贈与税はべらぼうに高いです。(5,000万円に対して係る税金は相続税だと8,000,000円、贈与税は23,500,000円…一般税率…なのでとても高いです)

 

だから、なるべくたくさんの財産を子供や孫に残そうと思うと、贈与税を回避しつつ相続財産を減らしていくことが必要になります。

 

贈与税を回避する方法は…

贈与税を回避する方法は、大きく3つあります。

①借りたことにする

②法律の仕組みに乗っかる

③あえて贈与税を払う

 

順番に見て行きましょう。

①借りたことにする

子供がお金に困っていたりすると援助してあげたくなるのが親心ってもんじゃないでしょうか。ただ多額の資金をただであげるとベラボウな贈与税がかかってしまい本末転倒な場合もあります。

 

そこで、親から子供へお金を貸したことにします。(子供から見れば借りたことになります)

お金の貸し借りについては特殊な関係のある者同士の場合、体裁をしっかり整えておく必要があります。(体裁が整っていないと国税側から贈与では?とツッコミを受けたりと面倒です)

体裁を整えるとは…

◯金銭消費貸借契約書を作成→体裁はネットなどに転がってます。収入印紙の貼付及び消印もお忘れなく。

◯親子といえど利息を支払う→無利息だと利息分の利益を贈与したと考えられます。親子といえどもシビアに利息を取りましょう。市場の利率を参考に決めるとよいでしょう。

◯もちろん、返済する→借りたら返す。当たり前ですね。返していないと贈与と言われても仕方ありません。

◯現実的な借入期間を設定→借入期間が終わると親の年齢が120歳とか常識ではありえないですよね。現実的な借入期間を設定しましょう。

 

このように、条件を整備して借りていたことにすれば取引上は「借り入れ(貸付)」ですのでもちろん無償であげたという「贈与」とはなりません。したがって贈与税を回避できます。

 

②贈与税の仕組みに乗っかる

贈与税の仕組みに乗っかるとは贈与税の仕組みを理解して、有利な規定を利用するということです。様々な規定がありますが、比較的利用度の高いものをご紹介します。

・暦年課税贈与の110万円非課税を利用

贈与税を計算する上で、非課税枠110万円があります。贈与税は1年単位で計算していくのですが、1年あたりの贈与を受けた金額が110万円以下であれば贈与税がかかりません。(非課税枠)

これを利用して、年間110万円ずつ贈与をしていけば贈与税を回避しつつ子や孫に財産を渡すことができます。

メリットは安全性が高いことですが、デメリットは時間がかかることですね。即効性を求めるならば少し厳しいかもしれません。

※税務署からの贈与事実の否認を受けないため、あえてちょっとだけ贈与税を支払うというスキームもあります。但し、綿密なタックスプランニングが必要となりますので素人が何も考えずに実施するのはおすすめしません。

 

・相続時精算課税贈与を利用する

財産をあげる人が60歳以上の親などで、財産を貰う人が20歳以上の子供など(孫も可)の場合には相続時精算課税贈与を選択することができます。税務署に届出を出せば、その年以降は相続時精算課税という仕組みで贈与税が計算できます。

相続時精算課税の何がお得かといいますと、もらった財産から2500万円の特別控除を差し引いて足が出た部分は20%の税率の贈与税ですむという点です。つまり2500万円以下の財産であれば贈与税を支払わずに財産を子や孫に渡すことができるのです。(アパートや株式などの収益物件を渡すと所得税との兼ね合いで有利となることが多いですので、贈与財産は収益物件がよいでしょう。もちろん、現金でもいいですが)

いいコトずくめに思える相続時精算課税ですが、デメリットもあります。

それは相続時精算課税贈与でもらった財産は必ず相続税の課税対象になるということです。

先程述べたように、基本的には、相続税は死んだ人が死んだ時点で持っていた財産に対して課税されるのですが、相続時精算課税は相続財産を次世代に先渡ししようという趣旨の制度でして、ほとんど贈与税を払わずに次世代の人が財産を手に入れることができる反面、財産をあげた人が死んだら必ず相続税の課税対象になってしまうわけです。

※相続税がかからない人であれば、相続時精算課税贈与も有効な方策の一つと言えます。ただし子供などのうち特定の人にだけ財産をあげると揉め事の火種になりかねませんが…そういった部分をクリアできれば2500万円をただで渡せるので検討してみたいですね。

 

・住宅取得資金の非課税、教育資金の一括贈与、結婚育児資金の一括贈与などの利用

贈与税の中には、親などから貰ったお金を条件を満たしながら一定の用途に使用すれば一定の金額(たとえば、住宅取得資金の非課税という制度の場合には1500万円※金額は年度や条件によって異なります)が非課税になります。

年齢や使い道などの条件をみたすほか、贈与税の確定申告をする、必要な一定の書類を集めて添付するなどの事務手続きも必要となりますが、制度上認められたものですので安全性は極めて高いです。

ただし、条件が厳しいのでしっかりと条件を確認しながら慎重に実施する必要があります。

 

③あえて贈与税を払う

親御さんが病気などでいつ死ぬかわからないなどの場合には、あえて贈与税を支払ってでも財産を子や孫に渡すほうが有利な場合があります。

これは贈与税も相続税も超過累進税率という仕組みを採用している都合上、起こり得ることなのですが、様々なシュミレーションをしてみないと判断がつかない事が多いですね。

 

上記方法については、いずれも事前のシュミレーションが重要となります。一旦実施をするとあとから撤回できないものもありますし、税法自体が変わってしまうリスクもあります。決して自分だけで判断せずに税理士に相談しましょう。失敗した場合のリスクは多額の贈与税などとなって跳ね返ってきます。

 

らくして得する方法はない

どの方法を選択しても要件や体裁を整える事、慎重に様々なケースをシュミレーションすること、確定申告などの事務手続きをしっかりとすることなどが必要になります。

 

楽して得するという方法は残念ながらないんですね…

 

結局「めんどくささ・贈与税や税理士報酬などの多少の支出」と「まとまったお金を子や孫に残す」というのはある程度のトレード・オフの関係にあるわけです。税理士だから言うわけではないですが、めんどくささや多少の税理士報酬などを受け入れても合法的な方法で財産を残すほうが結果的にはいいと思います。(ちなみに、欲の皮がつっぱりすぎてわけのわからん業者に依頼するのはヤメておきましょう。それこそリスクが大きく金の無駄です)