年収1,000万円でも不安な理由|手取り・教育費・老後を“家計BS”で再設計する

この記事は約11分で読めます。

令和6年分民間給与実態統計調査によると年収1,000万円超の人はおよそ6.2%です。高収入ですが、不安を感じる人も少なくありません。

「いまはお金が回っているけれど、教育費や老後は大丈夫だろうか」
「支出も多くて思ったほど貯蓄が増えない」
「お金はあるけれど、将来を考える時間がない」

本記事では、年収1,000万円を例として高所得世帯が感じる不安の構造を整理し、家計を「フロー」ではなく「ストック」で設計する考え方を解説します。

年収1,000万円の手取りはどのくらいか(前提整理)

年収手取り
300万243万
400万319万
500万396万
600万469万
700万535万
800万600万
900万668万
1,000万736万
1,100万801万
年収手取り
1,200万858万
1,300万915万
1,400万971万
1,500万1,022万
1,600万1,076万
1,700万1,129万
1,800万1,186万
1,900万1,242万
2,000万1,298万

※2026年分の所得税制と、2026年4月以降の社会保険料率等に基づく概算です。住民税は、同じ年収が継続する場合の負担を織り込んでいます。年間手取りは万円単位、月平均は千円単位に四捨五入しています。賞与の配分、加入する健康保険、家族構成、各種控除などによって実際の手取りは変わります。児童手当などの給付は含めていません。

しかし、不安の原因は“手取りの額”ではなく、「将来が読めないこと」にあります。

そして将来が読めない理由は、家計を収入(フロー)でしか見ていないからです。

つまり、年収1,000万円あっても、毎月の手取りだけを見ている限り安心にはつながりません。
次に、なぜ一定の手取りがあっても思ったほど貯まらず、不安が残りやすいのかを見ていきます。

★想定モデル(年収1,000万円世帯)
本記事は以下のような世帯を想定モデルとしています。

■ 世帯属性
夫:40歳・会社員・年収1,000万円
妻:専業主婦またはパート(年収0〜150万円)
子ども:2人(小学生)※中学受験を検討
(都市部在住)

■ 住宅
持家(ローン残高3,500万・完済まで25年ほど)

■ 預貯金等
約500万円

なぜ貯まらないのか

年収1,000万円の手取りは約736万円、単純計算では月約61.4万円になります。

例えば、住宅ローンの返済を含む家計の支出が月平均50万円なら、年間支出は600万円、残せるお金は136万円になります。妻の手取り収入があれば、その分を加えて考えます。

これは統計上の平均ではなく、家計の余裕を確認するための一例です。実際には、毎月の生活費に加え、賞与から支払う費用や臨時支出も含めて確認します。

年間136万円を残せても、子ども2人の教育費が重なる時期や、収入が減少する局面まで十分に対応できるかは別の問題です。年収1,000万円世帯の不安は「不足」ではなく、収入に依存した構造の偏りにあります。

具体的には、高所得になるほど追加収入の歩留まりが落ちること、将来の大きな支出が平準化されないことです。

税率の壁(フローの限界)

年収500万円の人が100万円増えた場合と、年収1,000万円の人が100万円増えた場合では、手元に残る割合は同じではありません。

つまり、追加的な努力に対する手取りの増加幅が鈍化するという、努力の「歩留まり」が悪いゾーンです。

しかも問題は、収入面に限界がある一方で、支出面はコントロールしづらいです。

特に教育費と老後費用は、総額だけでなく「いつ・どれだけ必要になるか」が読みづらく、不安の原因になりやすい支出です。

教育費は「総額」よりも「集中」が問題に

教育費は、公立・私立の別、大学の学部、自宅通学か下宿かなどによって大きく変わります。

文部科学省の「子供の学習費調査」は、幼稚園から高校までの学校教育費や学校外活動費などを調べたものです。大学の費用は、別に見積もる必要があります。

ここでは考え方を示すため、中学受験の準備期間(小学校の後半3年)から大学卒業までの13年間に、1人あたり1,300万円かかると仮定します。2人なら合計2,600万円です。この金額は統計上の平均ではなく、説明用の設定です。

1人あたりでは年平均100万円ですが、毎年均等に支払うわけではありません。受験・入学の時期や兄弟の在学期間が重なると、特定の年に負担が集中するため支出に凹凸があります。

総額を把握するだけでなく、「何年後に、いくら必要になるか」を年ごとに並べることが重要です。

老後資金は「毎年いくら不足する」が読めない

教育費で家計を圧迫するのは、総額そのものより、特定の年に支出が集中することです。
その点で、老後資金は逆の性質を持っています。こちらは一時的な大きな支出というより、毎年の不足額がじわじわ積み上がるリスクです。

総務省の2025年家計調査では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の消費支出は月263,979円、税金・社会保険料などの非消費支出は月32,850円です。両者を合計すると月296,829円になります。

ただし、これは調査対象世帯の平均であり、自分たちに必要な金額とは限りません。

本記事では、税金・社会保険料を除く生活費を月30万円と置き、次の条件で年金の手取りを概算します。

特別な所得控除はないものとして、2026年度の保険料率等で計算

  • 大阪市在住、夫婦とも65〜69歳
  • 夫婦とも国民健康保険に加入
  • 公的年金以外の所得はなく、前年も同額を受給
  • 妻の年金は年84万円、夫は年216万円または252万円
  • 国保は夫が負担し、介護保険料は各自の年金から徴収
  • 基礎控除・配偶者控除・社会保険料控除を適用し、医療費控除などは適用しないものとします
項目夫婦の年金月25万円夫婦の年金月28万円
年金年額・額面300万円336万円
年間の税金・社会保険料約39万円約52万円
月平均の年金手取り約21.8万円約23.7万円
生活費30万円に対する月不足約8.2万円約6.3万円
年間不足約99万円約76万円

この例では、生活費を補うために年間約76万〜99万円の取り崩しが必要です。

不足が同じ額で30年間続くと仮定した単純計算では、約2,300万〜3,000万円になります。ただし、75歳以降の医療保険制度への移行、夫婦の一方が亡くなった後の年金・生活費、物価や制度の変化は織り込んでいません。退職後に使える資金は、退職金の受取額だけで判断せず、住宅ローンの返済や予定している支出を差し引き、金融資産と合わせて確認します。

退職後に使える資金は、退職金と金融資産の合計から、退職時に残る住宅ローンや予定しているまとまった支出を差し引いて確認します。

例えば、返済などを済ませた後に使える金融資産が2,000万〜2,500万円なら、上記の単純計算と比較して、不足する組み合わせもあります。

年金の額面、生活費、退職金を個別に見るだけでなく、手取り収入と実際の支出をそろえて比較することが必要です。

このように、現在の年収が高くても、教育費が集中する時期や退職後まで余裕が続くとは限りません。

収入を増やすことや節税も有効ですが、それとあわせて、将来の収入・支出と保有資産を並べ、どの時期に資金が不足しそうかを確認する必要があります。

やりがちな解決策が効きにくい理由

高所得世帯でよく出てくる対策は、収入を増やすか、税負担を減らすか、仕組みを変えるかのいずれかです。
ただし、これらは部分的には有効でも、家計全体の不安を根本から消す決定打にはなりにくい面があります。

副業

副業は有効なケースもあります。

ただし、それは「時間とエネルギーを投下できる場合」に限られます。

高所得層にとっては「労働時間を増やす」よりも、「既存の収入の使い道を設計する」ほうが効率的なケースも少なくありません。

節税

iDeCoやふるさと納税など、利用できる制度を確認することも有効です。ただし、それぞれに条件があります。

iDeCoは掛金の所得控除を受けられる一方、原則として60歳まで引き出せず、運用商品によっては損失も生じます。教育費など、退職前に使うお金とは分けて考える必要があります。

ふるさと納税も、控除上限額や必要な手続きを確認したうえで利用します。

税負担が減ることと、自由に使えるお金が増えることは同じではありません。節税額だけでなく、支出額や資金を使える時期も確認することが重要です。

(参考)マイクロ法人

副業を法人化して、節税等につなげるスキーム「マイクロ法人」も、リスクやコストは見逃せません。

特に年収1,000万円を稼ぐような方なら、リソースをそこに割かなくても良いのではないでしょうか。

では、何を見直せばよいのでしょうか。
問題は収入の絶対額そのものより、家計がどの局面で崩れやすいかが見えていないことです。

だから必要なのは、毎月のフローを積み増すことより、家計全体の偏りをストックの側から見直す視点です。

「フロー→ストック」への転換で不安を緩和する

年収1,000万円世帯の不安は、突き詰めると“キャッシュフローが偏ること”に起因します。

家計をストックの視点で見ると、不安は漠然としたものではなく、いくつかの典型的なリスクに分解できます。

年収1,000万円世帯で特に意識したいのは、収入減少・教育費集中・住宅負債・インフレの4つです。

【収入停止(減少)リスク】

病気や怪我などで、収入が下がっても、高所得者ほど生活費が固定化しているため、下げづらいです。

「収入が減ったら今の生活水準を維持できない」と考えると貯蓄に走り、家計のキャッシュフローが偏ります。

【教育費集中リスク】

子どもが複数の場合の同時進学などで、教育費が一時点に集中すると家計を圧迫します。

【住宅価格・負債リスク】

「資産価値<ローン残高」となると

売却をしてもローンが残ってしまいます。

すると、「住み替え」「転居」「離婚」「相続」などの際に選択肢が大幅に制限されてしまいます。

【インフレリスク】

教育費や老後資金を現預金だけで準備していると、「金額は足りているのに、価値が足りない」という状態になりかねません。

したがって、現預金だけでなく、物価上昇に耐性のある資産も一定程度保有しておくことが、長期設計では重要になります。

設計で対策する

ここまでで見えてくるのは、不安の原因が一つではないということです。
だから対策も一つでは足りません。家計全体を見ながら、どの資産でどのリスクに備えるかを設計する必要があります。

年収1,000万円世帯は、公的支援が手厚い層ではありません。

だからこそ、自分で設計する必要があります。

解決策はシンプルです。

フローを増やすことではなく、ストックを設計することです。

具体的には、現預金だけに依存せず住宅・有価証券・年金資産などに分散して家計のバランスシートを整えることです。

もっとも、すべてを同時に考える必要はありません。
家計BSの土台として最初に検討しやすいのは住宅です。住宅は住居費、負債、将来の選択肢に直結し、家計全体への影響が大きいからです。

一般的な資産形成論は、節約や金融商品の選び方に寄りがちです。
しかし、高収入世帯の不安を左右するのは商品選びそのものではなく、教育費・住宅・老後資金を含めた家計全体の配置です。

中核は住宅

ストックのバランスをとる上で中核となるのは住宅です。

・税制優遇策が多い
・住み続けて将来の住居費を軽減できる
・売却して住み替えなどの選択肢も持てる

高所得者ほどレバレッジが利きやすい特徴があるため、適切な設計をすれば資産形成に役立ち将来不安の軽減にもなります。

ただし、住宅は買った時点で役割が終わる資産ではありません。
家計BSの中核として機能するかどうかは、将来も持ち続けられるか、必要なときに動かせるかという“出口”まで含めて決まります。

【住宅の出口戦略】

原則として住宅は住み続ける前提、住宅ローン完済後は老後の固定費を大きく下げることができます。

不動産の価値が一定程度確保されていれば、将来の売却や住み替えも現実的な選択肢となります。

税制上も住宅は有利に設計されています。

取得時だけでなく、売却時や相続時にも優遇があります。

もっとも、住宅だけで将来不安のすべてに対応できるわけではありません。
住居費の土台を整えたうえで、教育費や老後資金のように現金が必要になる場面に備えるには、流動性とインフレ耐性を持つ金融資産も必要になります。

株式は補助線

収入を現預金だけでなく、株式としても保有しているとインフレ耐性などのリスク分散と、配当収入という収入の複線化を同時に達成できます。

投機とならないように「現物・分散・長期」というリスク管理を徹底することで、増やすというより減らさないストックのバランスとなります。

株式を持つ意味は、単に資産を増やすことではありません。
将来の支出に対して、預金以外の取り崩し手段を持つことにあります。その視点で考えると、教育費や老後資金も「いくら必要か」だけでなく「どこから出すか」が重要になります。

【教育費・老後資金の出口戦略】

例えば、株式投資の元本が1,000万円、年間の配当利回りが税引前5%なら、年間配当は50万円です。

通常の課税口座で20.315%が源泉徴収され、確定申告による精算をしない場合、手取りは約39.8万円になります。

家計の補填額を考える際は、税引後の金額を使います。また、5%は説明用の仮定であり、将来の利回りや配当を保証するものではありません。減配や株価下落も考慮し、生活費のすべてを依存させず、補助的な収入源として位置づけます。

ただし、資産側の工夫だけで全てを賄うのは現実的ではありません。
家計を安定させるには、取り崩しの設計に加えて、世帯としての収入源を一つに依存しすぎないことも重要です。

収入の複線化

家族の方針や事情もあるため、誰にでも取れる手段ではありませんので、サブ的な手段となりますが「共働き」や「親からの贈与」も有効です。

ここまで見てきた住宅・金融資産・収入の複線化は、いわば家計の土台を強くするための設計です。
その最後に調整したいのが、保険と年金です。これらは将来不安への備えとして使われやすい一方、過不足が出やすい領域でもあります。

保険資産・年金資産

将来への備えとしての保険や年金は、適正な金額のバランスがとりづらく、かけ過ぎ・かけなさ過ぎになりやすいです。

税理士として数々の確定申告書を見てきた経験からすると、保険はかけすぎ、年金資産は準備が遅い傾向にあるため、これらのバランスが良くなると将来不安は軽減されるのではないでしょうか。

重要なのは「資産を増やすこと」ではなく、「取り崩し速度を遅くすること」です。これが長生きリスクへの基本的な備えになります。

まずやること

  • 教育費のピーク年と老後の年間不足額を「概算」する
  • 現在の預貯金、年間の余剰、退職金や年金で、どこまで賄えそうかを「概算」する
  • 足りない分を、どう補うのか(配当なら元本はどのくらいか)方向性を決める

最初から完璧な設計を作る必要はありません、まずは「極端な偏り」を是正するところからがスタートです。

まとめ(思想)

年収1,000万円は、制度上の再配分が効かない=守られる層ではありませんが

大きなフローを活かした「設計」を自身で行える層ではあります。

将来の不安は、収入の不足からというより、備えの無さや見通しが立ちにくいことに起因することが多いため、

不安を消す方法は「お金を増やすこと」ではなく、自分に最適な設定をして「見通しを作ること」です。

共働き世帯の資産形成を整理したい方へ

資産形成は、投資商品を選ぶだけでは決まりません。
住宅取得、教育費、老後資金、保険、税金、相続まで含めて、家計全体で考える必要があります。

このブログでは一般的な考え方を整理していますが、実際の判断は、収入、家族構成、住宅ローン、教育方針、保有資産によって変わります。

個別の状況を前提に整理したい方は、内容に応じて単発相談をご利用ください。

この記事を書いた人
アバター画像

税理士・佐野匡司
大阪の小さな事務所を運営する現役税理士。
官報合格(試験合格)+実務経験15年以上。
中小企業オーナーや資産形成を志す個人(特に共働き夫婦・パワーカップル)に向けて、
「リスクを抑えたお金の戦略」を発信中。

保険・投資・不動産などの販売とは無縁の独立系の立場から、
中立的で実務に根ざした情報をお届けします。

佐野 匡司をフォローする
共働き世帯の資産形成
スポンサーリンク