年収1,000万円でも不安な理由|手取り・教育費・老後を“家計BS”で再設計する

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令和6年分民間給与実態統計調査によると年収1,000万円超の人はおよそ6.2%です。高収入ですが、不安を感じる人も少なくありません。

「いまはお金が回っているけれど、教育費や老後は大丈夫だろうか」
「支出も多くて思ったほど貯蓄が増えない」
「お金はあるけれど、将来を考える時間がない」

本記事では、年収1,000万円を例として高所得世帯が感じる不安の構造を整理し、家計を「フロー」ではなく「ストック」で設計する考え方を解説します。

年収1,000万円の手取りはどのくらいか(前提整理)

年収手取り
300万242万
400万318万
500万391万
600万462万
700万529万
800万593万
900万659万
1,000万725万
1,100万789万
年収手取り
1,200万854万
1,300万915万
1,400万970万
1,500万1,022万
1,600万1,077万
1,700万1,131万
1,800万1,188万
1,900万1,245万
2,000万1,302万

しかし、不安の原因は“手取りの額”ではなく、「将来が読めないこと」にあります。

そして将来が読めない理由は、家計を収入(フロー)でしか見ていないからです。

つまり、年収1,000万円あっても、毎月の手取りだけを見ている限り安心にはつながりません。
次に、なぜ一定の手取りがあっても思ったほど貯まらず、不安が残りやすいのかを見ていきます。

★想定モデル(年収1,000万円世帯)
本記事は以下のような世帯を想定モデルとしています。

■ 世帯属性
夫:40歳・会社員・年収1,000万円
妻:専業主婦またはパート(年収0〜150万円)
子ども:2人(小学生)※中学受験を検討
(都市部在住)

■ 住宅
持家(ローン残高3,500万・完済まで25年ほど)

■ 預貯金等
約500万円

なぜ貯まらないのか

年収1,000万円の手取りは約720万円、単純計算では月約60万円になります。

総務省統計では世帯の消費支出は月あたり約40万円ですが、(この統計には住宅ローンが含まれていないので)住宅ローンを加味すると実態は月50万円強になる家庭も多いでしょう。

年間で残せるのは100万〜150万円程度。

充分なようにも思えますが、教育費が集中する時期や収入が減少した局面では、この余裕は簡単に消えます。

年収1,000万円世帯の不安は「不足」ではなく、収入に依存した構造の偏りにあります。

貯まりにくい理由は一つではありません。
高所得になるほど追加収入の歩留まりが落ちること、将来の大きな支出が平準化されないこと、この二つが重なるためです。

税率の壁(フローの限界)

年収500万円の人が100万円増えた場合と、年収1,000万円の人が100万円増えた場合では、手元に残る割合は同じではありません。

つまり、追加的な努力に対する手取りの増加幅が鈍化するという、努力の「歩留まり」が悪いゾーンです。

しかも問題は、収入面に限界がある一方で、支出面はさらにコントロールしづらいことです。

特に教育費と老後費用は、総額だけでなく「いつ・どれだけ必要になるか」が読みづらく、不安の原因になりやすい支出です。

教育費は「総額」よりも「集中」が問題に

文部科学省の「学習費調査」(一部は筆者推定)によると、幼稚園から大学まで全て国公立だと約820万〜、幼稚園から高校まで公立・大学のみ私立(文系)で約980万〜、全て私立のルートだと約2,200万〜です。

中学受験を前提とし、最もお金のかかる受験・中・高・大学期間の教育費は1人あたり約1,300万円。2人で約2,700万円規模になります。

中学受験〜大学卒業までの13年で見れば年平均100万円程度で回せますが、実際には金額の凹凸があり、兄弟の動向次第では年間300万円超になる年もあります。

ただし、教育費と老後資金は「読みにくさ」の性質が同じではありません。
教育費は特定の時期にまとまって出ていくのに対し、老後資金は毎年の不足が長く続く形で表れやすいからです。

老後資金は「毎年いくら不足する」が読めない

教育費で家計を圧迫するのは、総額そのものより、特定の年に支出が集中することです。
その点で、老後資金は逆の性質を持っています。こちらは一時的な大きな支出というより、毎年の不足額がじわじわ積み上がるリスクです。

総務省統計局の家計調査によれば、老後の生活費(夫婦2人)は月28.2万円、年額で約360万円とされています。ただし年金額は世帯ごとに異なるため、不足額は人によって大きく変わります。

そこで想定モデルをもとに、老後資金の不足額を簡単に試算してみます。

【老後資金シミュレーション(想定モデルに基づく)】

前提
・夫婦年金:月25〜28万円
・老後生活費:月30万円

不足額
項目金額
月不足4〜7万円
年不足約50〜85万円
30年不足約1,500〜2,500万円
老後資金源
資金源金額
退職金約2,000〜3,000万円
ローン返済約▲1,000〜1,500万円
手残り約1,000〜1,500万円
退職時
金融資産
約1,000万円
老後原資約2,000〜2,500万円

老後原資は不足額と概ね均衡しますが、長生きやインフレを考えると余裕があるとは言えません。

ここまでを見ると、不安の原因は「今の年収が低いこと」ではなく、将来の支出構造に余裕が少ないことだと分かります。
そうすると、解決策も「もっと稼ぐ」「節税する」といった単純な話だけでは足りません。

やりがちな解決策が効きにくい理由

高所得世帯でよく出てくる対策は、収入を増やすか、税負担を減らすか、仕組みを変えるかのいずれかです。
ただし、これらは部分的には有効でも、家計全体の不安を根本から消す決定打にはなりにくい面があります。

副業

副業は有効なケースもあります。

ただし、それは「時間とエネルギーを投下できる場合」に限られます。

高所得層にとっては「労働時間を増やす」よりも、「既存の収入の使い道を設計する」ほうが効率的なケースも少なくありません。

節税

iDeCoやふるさと納税などセオリーは押さえるべきです。ほぼノーリスクですので。

一方で、節税の大半はお金を使って税を減らすことですから、

節税と貯蓄はバランスを見て行わないと、税は減ったが手残りも減ったということになりかねません。

(参考)マイクロ法人

副業を法人化して、節税等につなげるスキーム「マイクロ法人」も、リスクやコストは見逃せません。

特に年収1,000万円を稼ぐような方なら、リソースをそこに割かなくても良いのではないでしょうか。

では、何を見直せばよいのでしょうか。
問題は収入の絶対額そのものより、家計がどの局面で崩れやすいかが見えていないことです。

だから必要なのは、毎月のフローを積み増すことより、家計全体の偏りをストックの側から見直す視点です。

「フロー→ストック」への転換で不安を緩和する

年収1,000万円世帯の不安は、突き詰めると“キャッシュフローが偏ること”に起因します。

家計をストックの視点で見ると、不安は漠然としたものではなく、いくつかの典型的なリスクに分解できます。

年収1,000万円世帯で特に意識したいのは、収入減少・教育費集中・住宅負債・インフレの4つです。

【収入停止(減少)リスク】

病気や怪我などで、収入が下がっても、高所得者ほど生活費が固定化しているため、下げづらいです。

「収入が減ったら今の生活水準を維持できない」と考えると貯蓄に走り、家計のキャッシュフローが偏ります。

【教育費集中リスク】

子どもが複数の場合の同時進学などで、教育費が一時点に集中すると家計を圧迫します。

【住宅価格・負債リスク】

「資産価値<ローン残高」となると

売却をしてもローンが残ってしまいます。

すると、「住み替え」「転居」「離婚」「相続」などの際に選択肢が大幅に制限されてしまいます。

【インフレリスク】

教育費や老後資金を現預金だけで準備していると、「金額は足りているのに、価値が足りない」という状態になりかねません。

したがって、現預金だけでなく、物価上昇に耐性のある資産も一定程度保有しておくことが、長期設計では重要になります。

設計で対策する

ここまでで見えてくるのは、不安の原因が一つではないということです。
だから対策も一つでは足りません。家計全体を見ながら、どの資産でどのリスクに備えるかを設計する必要があります。

年収1,000万円世帯は、公的支援が手厚い層ではありません。

だからこそ、自分で設計する必要があります。

解決策はシンプルです。

フローを増やすことではなく、ストックを設計することです。

具体的には、現預金だけに依存せず住宅・有価証券・年金資産などに分散して家計のバランスシートを整えることです。

もっとも、すべてを同時に考える必要はありません。
家計BSの土台として最初に検討しやすいのは住宅です。住宅は住居費、負債、将来の選択肢に直結し、家計全体への影響が大きいからです。

一般的な資産形成論は、節約や金融商品の選び方に寄りがちです。
しかし、高収入世帯の不安を左右するのは商品選びそのものではなく、教育費・住宅・老後資金を含めた家計全体の配置です。

中核は住宅

ストックのバランスをとる上で中核となるのは住宅です。

・税制優遇策が多い
・住み続けて将来の住居費を軽減できる
・売却して住み替えなどの選択肢も持てる

高所得者ほどレバレッジが利きやすい特徴があるため、適切な設計をすれば資産形成に役立ち将来不安の軽減にもなります。

ただし、住宅は買った時点で役割が終わる資産ではありません。
家計BSの中核として機能するかどうかは、将来も持ち続けられるか、必要なときに動かせるかという“出口”まで含めて決まります。

【住宅の出口戦略】

原則として住宅は住み続ける前提、住宅ローン完済後は老後の固定費を大きく下げることができます。

不動産の価値が一定程度確保されていれば、将来の売却や住み替えも現実的な選択肢となります。

税制上も住宅は有利に設計されています。

取得時だけでなく、売却時や相続時にも優遇があります。

もっとも、住宅だけで将来不安のすべてに対応できるわけではありません。
住居費の土台を整えたうえで、教育費や老後資金のように現金が必要になる場面に備えるには、流動性とインフレ耐性を持つ金融資産も必要になります。

株式は補助線

収入を現預金だけでなく、株式としても保有しているとインフレ耐性などのリスク分散と、配当収入という収入の複線化を同時に達成できます。

投機とならないように「現物・分散・長期」というリスク管理を徹底することで、増やすというより減らさないストックのバランスとなります。

株式を持つ意味は、単に資産を増やすことではありません。
将来の支出に対して、預金以外の取り崩し手段を持つことにあります。その視点で考えると、教育費や老後資金も「いくら必要か」だけでなく「どこから出すか」が重要になります。

【教育費・老後資金の出口戦略】

例えば、株式投資の元本が1,000万で配当率が5%なら毎年50万円が入ります。

教育費や老後資金に充てれば、家計への圧迫を軽減できますし、貯金の取崩しが緩やかになります。

減配リスクなどがありますから、補助的な手段としつつ、銘柄選定・分散投資などで安定的に収入を得られるように設計することが重要です。

ただし、資産側の工夫だけで全てを賄うのは現実的ではありません。
家計を安定させるには、取り崩しの設計に加えて、世帯としての収入源を一つに依存しすぎないことも重要です。

収入の複線化

家族の方針や事情もあるため、誰にでも取れる手段ではありませんので、サブ的な手段となりますが「共働き」や「親からの贈与」も有効です。

ここまで見てきた住宅・金融資産・収入の複線化は、いわば家計の土台を強くするための設計です。
その最後に調整したいのが、保険と年金です。これらは将来不安への備えとして使われやすい一方、過不足が出やすい領域でもあります。

保険資産・年金資産

将来への備えとしての保険や年金は、適正な金額のバランスがとりづらく、かけ過ぎ・かけなさ過ぎになりやすいです。

税理士として数々の確定申告書を見てきた経験からすると、保険はかけすぎ、年金資産は準備が遅い傾向にあるため、これらのバランスが良くなると将来不安は軽減されるのではないでしょうか。

重要なのは「資産を増やすこと」ではなく、「取り崩し速度を遅くすること」です。これが長生きリスクへの基本的な備えになります。

まずやること

  • 教育費のピーク年と老後の年間不足額を「概算」する
  • 現在の預貯金、年間の余剰、退職金や年金で、どこまで賄えそうかを「概算」する
  • 足りない分を、どう補うのか(配当なら元本はどのくらいか)方向性を決める

最初から完璧な設計を作る必要はありません、まずは「極端な偏り」を是正するところからがスタートです。

まとめ(思想)

年収1,000万円は、制度上の再配分が効かない=守られる層ではありませんが

大きなフローを活かした「設計」を自身で行える層ではあります。

将来の不安は、収入の不足からというより、備えの無さや見通しが立ちにくいことに起因することが多いため、

不安を消す方法は「お金を増やすこと」ではなく、自分に最適な設定をして「見通しを作ること」です。

共働き世帯の資産形成を整理したい方へ

資産形成は、投資商品を選ぶだけでは決まりません。
住宅取得、教育費、老後資金、保険、税金、相続まで含めて、家計全体で考える必要があります。

このブログでは一般的な考え方を整理していますが、実際の判断は、収入、家族構成、住宅ローン、教育方針、保有資産によって変わります。

個別の状況を前提に整理したい方は、内容に応じて単発相談をご利用ください。

この記事を書いた人
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税理士・佐野匡司
大阪の小さな事務所を運営する現役税理士。
官報合格(試験合格)+実務経験15年以上。
中小企業オーナーや資産形成を志す個人(特に共働き夫婦・パワーカップル)に向けて、
「リスクを抑えたお金の戦略」を発信中。

保険・投資・不動産などの販売とは無縁の独立系の立場から、
中立的で実務に根ざした情報をお届けします。

共働き世帯の資産形成
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