子世代が住宅取得の際、親世代から資金援助を受けるにあたって適用可能な制度が「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」です。
有効に活用すれば、子世代の資産形成と親世代の相続対策を同時に進められる一方、要件確認や配慮すべき事情が多い制度でもあります。
ここでは、制度を有効活用する上でポイントとなる「要件」などを事前に整理する目的で解説します。
- 住宅取得等資金贈与で何ができるか
- どのような場面で使える制度か
- 注意が必要な場面
- よくある誤解
- 贈与税だけでなく、親の老後資金や相続との関係
- 住宅の名義・持分で注意すべき点
- 資産形成・住宅取得・相続対策との関係
この記事で扱う範囲
この記事では、父母や祖父母などの直系尊属から、住宅取得等資金の贈与を受ける場合の非課税制度を中心に解説します。
申告書の具体的な書き方や添付書類の詳細までは扱わず、住宅取得前に確認しておきたい条件整備についてのポイントを中心とします。

住宅取得等資金贈与で何ができるか
住宅の取得に際して、親や祖父母など直系尊属から資金援助を受けた場合、要件を満たすと一定額が贈与税非課税となる制度です。
通常、金銭などを無償で与える行為つまり贈与には贈与課税が行われます。
しかし、この制度では住宅取得等資金として一定の要件を満たす場合に、一定額まで贈与税の負担を軽減できます。
これにより、子世代は住宅取得時の頭金を増やしたり、住宅ローンの借入額を抑えたりしやすくなります。
一方、親世代にとっては、生前に財産を子世代へ移す効果もあるため、将来の相続対策の一部として検討されることもあります。
使える場面
住宅取得等資金贈与は、主に次のような場面で検討します。
- 親や祖父母が、子や孫の住宅取得を援助する
- 子世代が住宅取得時の頭金を増やしたい
- 住宅ローンの借入額を抑えたい
- 親世代の財産を、生前に子世代へ移したい
- 住宅取得と将来の相続対策をあわせて考えたい
特に、子世代が住宅を取得するタイミングで、親世代に一定の資金余力がある場合には、検討対象になりやすい制度です。
ただし、親世代の財産を減らすことだけを目的に使うのではなく、親の老後資金や今後の生活費、更には他の兄弟等とのバランスも踏まえて判断する必要があります。
注意が必要な場面
住宅が一定の要件を満たす必要がある
この制度の対象となる贈与された「資金」は住宅取得等のために全額使用しなければならないこと、そして取得した「住宅」は床面積、取得時期、居住時期、住宅性能など、一定の要件を満たす必要があります。
非課税限度額を超えた部分は贈与税の対象になる
住宅取得等資金贈与は、一定額(非課税限度額)まで非課税になる制度であるため、非課税限度額を超えて贈与を受けた部分については、贈与税の課税対象になります。
また、非課税制度を使う場合でも、暦年課税と相続時精算課税の選択、他の贈与との関係、相続との関係などタックスプランニングの検討が重要となる場合があります。
一定期限までに住宅取得・居住が必要になる
住宅取得等資金贈与は、資金贈与を受けて終わりではありません。
贈与を受けた後、贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を住宅取得に充て、さらにその住宅に居住する必要があります。
そのため、住宅の建築や引渡し、入居時期などのスケジュールなどに注意を払う必要があります。
親の老後資金や他の推定相続人との公平性
住宅取得資金の贈与は、親世代の預貯金や金融資産が減少するため、親世代の生活資金等を考慮して行う必要があります。
また、住宅取得等資金を受け取らなかった他の兄弟姉妹への不公平に配慮しないと、のちの相続時に分割協議がまとまりにくくなるなどのリスクが考えられます。
場合によっては、特別受益として問題になることもあり得ます。
ですから、制度上の実行可能性と家族間の納得感を考慮した設計を意識すべきでしょう。
共有名義・持分割合に注意が必要
不動産を共有すると、売却などの場面において共有者全員の同意が必要となるなど、手続が煩雑になるデメリットがあります。
また、夫婦で資金を出しあって住宅を取得するケースなどは、資金負担と持分が合っているかは要注意です。
資金負担と登記上の持分が大きくずれると、当事者間で贈与があったとみなされる可能性があります。
目的となる住宅を共有するなら、資金負担と持分割合をどうするかまで検討したうえで、実行することが重要です。
よくある誤解
誤解1:親からもらえば誰でも非課税になる
対象となる贈与は、自身の父母や祖父母などの直系尊属からの贈与のみです。
そのため、配偶者の親や祖父母から、自分が贈与を受ける場合には、原則としてこの制度の対象になりません。
たとえば、夫が住宅を取得する場合に、妻の親から夫が住宅取得資金の贈与を受けても、夫から見て妻の親は直系尊属ではありません。
この場合、住宅取得等資金贈与の非課税制度の対象外となる可能性があります。
誤解2:非課税枠内なら申告しなくてよい
住宅取得等資金贈与は、非課税枠内で実行し、税額が発生しなくても、適用を受けるためには所定の事項を記載し、一定の書類を添付した贈与税の申告が必要となります。
「税金がかからないから申告しなくてよい」と考えるのは誤りです。
申告期限までに必要な申告を行わなければ、制度の適用を受けられない可能性があります。
誤解3:贈与税が非課税なら相続には関係ない
贈与税が非課税になることと、将来の相続で問題にならないことは別問題です。
原則として、住宅取得等資金贈与の非課税の適用を受けた金額は、相続税の計算上は課税対象とはなりませんが、他の相続人との公平性が担保されていないと感情面でのこじれが起きてしまいます。
そうなると相続手続きが進まなくなってしまう懸念もあるため、贈与を受けていない他の相続人等への配慮も必要です。
判断を誤ると何が起きるか
住宅取得等資金贈与は、使い方を誤ると、かえって問題を大きくする可能性があります。
- 要件を満たしていなければ、贈与税が課税される
- 非課税枠を超えた部分を考慮していなければ、想定外の贈与税が発生する
- 親の老後資金を削ってしまえば、将来的に親の生活費や介護費用が不足する
- 特定の子どもだけが多額の援助を受けた場合には、将来の相続で兄弟姉妹間の不公平感につながる
- 住宅の名義や持分を誤ると、別の贈与課税リスクが発生する
つまり、住宅取得等資金贈与は、贈与税の非課税枠だけで判断する制度ではなく、条件を整備することが重要な制度です。
税理士視点で注意すべき点
住宅取得等資金贈与では、「贈与する人」「贈与を受ける人」「住宅」などの要件整備はもちろん、親世代の生活費や贈与を受けていない人との公平性まで考える必要があります。
- 贈与者は直系尊属に該当するか
- 贈与を受ける人は制度の要件を満たすか
- 住宅の床面積や性能などの要件を満たすか
- 期限までに住宅取得・居住ができるか
- 非課税限度額を超える部分がないか
- 親の老後資金に無理がないか
- 親の財産構成から見て相続税対策として意味があるか
- 他の相続人との公平性に問題がないか
- 住宅の名義・持分と資金負担が合っているか
資産形成との関係
住宅取得等資金贈与は、子世代の資産形成と親世代の相続対策を同時に進められる可能性がある制度です。
子世代にとっては、頭金を増やすことで住宅ローンの借入額を抑えたり、住宅取得後の家計負担を軽くしたりする効果。
親世代にとっては、生前に財産を子世代へ移すことで、将来の相続財産を減らす効果があります。
ただし、いずれも他の施策や条件の組み合わせ次第で、有利にも不利にもなり得ます。
贈与だけでなく、その前後関係まで含めた事前のプランニング(特にタックスプランニング)がポイントです。
まとめ
住宅取得等資金贈与は、親や祖父母から住宅取得資金の援助を受ける場合に、一定額まで贈与税が非課税になる制度です。
子世代にとっては資産形成上の、親世代にとっては相続対策上のメリットがあります。
しかし、非課税枠だけを見て判断するのでなく、適用要件を満たせるか、贈与後の親の生活面や他の子どもなどへの配慮がなされているかまで含めた、総合的な判断と条件整備が重要です。

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