相続税は「財産」に課税されるため、「財産の金額がいくらか?」が大きな問題となります。
相続税では、財産を「その時点での時価」で評価することが基本です。ただし、すべての財産について実際の売却価格を個別に見積もると公平性や実務上の問題が生じるため、実務上は財産評価基本通達などに基づいて評価します。
なかでも「土地」や「非上場株式」は評価の工程が複雑で、収集資料や確認事項も多岐にわたるため、難解になってしまいがちです。
そのため、評価の難度が高い財産が多い相続では、税理士・納税者の双方にとって手続にかかる手間が増え、税理士報酬も高額になる傾向があります。

- 相続税申告でいう「評価」とは何か
- 時価と相続税評価額の違い
- 財産評価基本通達に従って評価する理由
- 土地や非上場株式の評価が難しい理由
- 評価が難しい財産が多いと、税理士報酬が増えやすい理由
- 相続税申告前に資料を整理しておく意味
この記事で扱う範囲
この記事では、相続税申告における「財産評価」の基本的な考え方を扱います。
土地の詳細な補正計算、非上場株式の具体的な評価計算、特殊な財産評価、評価通達によらない評価など個別の財産評価方法を詳しく解説する記事ではありません。
この記事の目的は、相続税申告ではなぜ財産を評価する必要があり、なぜ財産の種類によって申告の手間が変わるのかを理解することです。
相続税申告における「評価」とは
相続税は亡くなった人が所有していた財産に課税されるため、その財産が「いくらか?」がポイントになります。
「財産がいくらか?」つまり、財産に金額をつけることを「評価」と呼びます。
相続税における財産評価は、相続税を課税するベースを決める行為のため、公平性がなによりも必要になります。
そのため、課税庁が「この財産はこのように金額を決める」というルールを財産評価基本通達などに定めています。
相続税申告に際しては、基本的にこの財産評価基本通達にしたがって、それぞれの財産の金額を決めていく(財産評価する)必要があるのです。
なお、相続税と贈与税は補完関係にあるとされているため、贈与税の計算においても同様に財産評価を行います。
時価と相続税評価額は同じとは限らない
財産の金額と「時価」は密接な関係にあります。
時価は考え方次第で様々なものがあります。売れる金額、その資産から生み出されるお金を合計したもの、税金の計算のために計算するものなど。
相続税における財産評価額も「時価」の一種と言えますが、実際に売却できる価格や中古業者の査定額とも一致するわけではありません。
相続税評価額は、課税のベースになるもののため「売買当事者の力関係」や「一定期間の価格変動」などを排除しているためです。
一般的な言葉で使う「時価」を税の世界では「実勢時価」と言いますが、相続税評価額は、実際に売却できる価格と一致するとは限りません。
土地などでは実勢価格より低くなるケースもありますが、財産の種類や個別事情によって差が出るため、「相続税評価額=実際の売却価格」と考えない方がよいです。
財産評価基本通達などに従って算定する
相続税評価額は、税金を課税するベースのため財産評価基本通達にその算定方法が定められています。
財産によって計算単位や計算方法は異なるため、財産に応じて評価することになります。
預貯金や上場株式、上場債券などの金融資産は金額が把握しやすいため、資料収集の手間はあるものの、その評価はそこまで複雑ではありません。
一方で、土地や非上場株式などのように金額が把握しづらい財産は、その「実態」を調査したうえで資料収集し、評価を行う必要があります。
土地の評価が難しい理由
土地の評価が難しい理由は、概ね3つに大別されます。
「所在している地域差」
「形状等による個体差」
「利用状況による差」
です。
「所在している地域」については、路線価が定められている地域では路線価方式、路線価が定められていない地域では倍率方式などにより評価します。そのため、どこに所在する土地かによって、確認すべき資料や評価方法が変わります。
住宅の多いエリア、工場の多いエリア、法的規制のあるエリアなどによって、その価値が大きく変わることの理由の一つです。
「形状等による差」は、面積が同じであっても綺麗な四角形(整形地)なのか、いびつな形(不整形地)によっても価値は変わります。
そのうえ、土地の奥行や間口の距離、複数の道路に接しているかなどによっても価値は大きく変わるからです。
「利用状況による差」は、自己利用か他者に貸しているのか、建物の有無、複数の土地を一体として利用しているのか、広大な土地を用途を分けて利用しているのか、などによって実態が大きく異なってしまうからです。
そのため、土地評価では次のような確認が必要になります。
- 固定資産税課税明細書
- 登記事項証明書
- 公図
- 地積測量図
- 建物図面
- 路線価図・評価倍率表
- 都市計画情報
- 道路の状況
- 現地の利用状況
- 賃貸借契約の有無
土地によっては、現地確認や役所での調査が必要になるケースもあります。
非上場株式の評価が難しい理由
非上場株式は相続財産のなかで、評価が難しくなりやすい財産です。
上場株式は、その上場している金融市場を調べれば取引価格を把握することができます。
一方で、非上場株式は金融市場に上場していませんから、取引価格を把握することが困難であるため、「実態を考慮」して評価する必要があるためです。
国税庁は、取引相場のない株式(非上場株式)について、会社規模に応じて大会社・中会社・小会社に区分し、大会社は原則として類似業種比準方式、小会社は原則として純資産価額方式、中会社は両方式を併用して評価すると説明しています。
これは非上場株式の実態を詳細に分類したうえでの評価を求めるものです。
複数の期間の「決算書や法人税申告書」を収集したうえで
- 株主の構成等
- 事業内容
- 従業員数
- 資本金等
- 配当
- 利益
- 純資産
- 会社が保有する資産
などを読み取り、実態に応じた評価を行います。
法人オーナーの相続では、かなりのウエイトを占める財産です。
評価の難度が高い財産が多いと、税理士報酬が増えやすい
相続税申告に係る税理士報酬は、一般的に
- 財産総額
- 相続人の数
- 申告期限までの日数
- 評価難度の高い財産の有無等
を考慮して決定されます。
一方で、納税額とは相関関係にないケースがあります。
これは「配偶者の税額軽減」「小規模宅地等の特例」「納税猶予」などにより納税額が抑えれる場合でも、財産評価や申告作業そのものが簡単になるとは限らないからです。
また、財産総額が同じくらいの金額でも、評価難度の高い財産が多い場合、現地調査や収集資料などの「評価の手間」や「考慮すべきこと」が増えるため、報酬額が増加するケースもあり得ます。
相続税申告前に資料を整理しておく意味
相続税申告では、財産評価に必要な資料を集めることが重要です。
資料が不足していると、評価に時間がかかるだけでなく、適切な評価ができない可能性もあるためです。
特に土地や非上場株式がある場合には、早めに資料を整理しておく方がよいでしょう。
非上場株式の必要資料は、基本的には法人の決算書一式であり、そこまで見つけにくくはないです。
その一方で、土地については「先祖代々の土地」だったり、「かなり昔に取得した土地」だと資料が散逸していたりするため、その所在を確認しておくことが重要です。
そのうえで、資料がなければ前もって集めておくことも相続対策としては有効です。
資産形成との関係
資産形成では、「財産の金額」とともに、「財産の中身」のいずれもが重要です。
同じくらいの金額でも、預貯金が多いのか、不動産が多いのか、非上場株式が多いのかによって、相続時の対応は変わることがあります。
不動産や非上場株式は、財産額としては大きくても、すぐに納税資金として使えるとは限りません。(非上場株式は事業遂行の制約から売却が難しいことが多々あります)
また、評価が難しい財産が多いほど、相続税申告の手間や費用も増えやすいです。
そのため、資産形成では、
「いくら持っているか」
だけでなく、
- どのような財産として持っているか
- 換金しやすい財産があるか
- 相続時に評価や分割で困らないか
まで考える必要があります。
これは、相続対策を亡くなる直前の節税策として考えるのではなく、長い時間をかけて資産の持ち方を整えるべき理由でもあります。
まとめ
財産に課税される相続税申告では、「その財産がいくらか?」が重要です。
課税するための金額であるため、実際に売れる価格と一致するとは限らず、財産評価基本通達などのルールに従って算定します。
預貯金や上場株式は比較的評価しやすい一方で、土地や非上場株式は調査事項や確認項目が増えるため評価が難しくなりやすいです。
評価の難度が高い財産が多いと、相続税申告にかかる手間や税理士報酬も増えやすい傾向にあります。
加えて、評価難度の高い財産は換金性が低く、分割も難しいことが多いため、納税資金や分け方に問題が出ることも考えられます。
資産形成の段階でも、将来の相続を見据えて、財産の持ち方や資料の整理を意識しておくことが有効です。

