法人や個人事業主に、顧問税理士をつけなければならないという義務はないため
自社で記帳し、税務申告できるのであれば、税理士と契約は必須ではありません。
にもかかわらず、多くの小規模企業が税理士と顧問契約を結ぶのは、申告書を作ってもらうことだけが目的ではないからです。
小規模企業では、社長が事業のことをもっともよく理解している一方で、その実態が損益や資金繰りといった数値にどのように表れているかまで把握できていないことがあります。
会社の実態を根拠のある数字で把握している人を、社内で雇う代わりに社外に持つ。そこにも顧問税理士をつける意味があります。

顧問税理士をつける一般的なメリット
顧問税理士をつける一般的なメリットは、次のようなものです。
- 経理や税務にかかる負担を減らし、本業に集中できる
- 会計処理や税務申告の誤りを減らせる
- 決算前に節税を検討できる
- 融資や資金繰りについて相談できる
- 税務調査があったときに対応を依頼できる
ただし、税理士と契約するだけで、自動的に節税できたり、融資を受けやすくなったり、税務調査で有利になったりするわけではありません。
大切なのは、税理士が会社の実態を数字で継続的に把握し、その意味を社長と「共有」していることです。
小規模企業には、「会社の数字を把握している人」が必要
社長は、顧客、商品、従業員、受注状況、オペレーションなど、会社の事業について最もよく理解しています。
一方で、その事業上の実感と、会計上の損益や実際のキャッシュといった数値とは一致するとは限りません。
売上を計上しても、まだ入金されていなければ現預金は増えません。借入金が入金されれば現預金は増えますが、利益ではありません。反対に、借入金の元金を返済すれば現預金は減りますが、経費にはなりません。
このような違いがあるため、事業は順調に感じているのに資金が残らなかったり、利益が出ているのに納税資金が足りなかったりすることがあります。
規模の大きな会社であれば、経理責任者や財務担当者が会社の数字を把握し、社長へ説明できます。
しかし、小規模企業がそのような専門人材を常勤で雇うのは、費用と仕事量の両面で難しいことがあります。
そこで、会社の数字を把握する人を社外に持つ方法が、税理士との顧問契約です。
会社の数字は、おおむね次の三段階で解像度が上がります。
- 記帳して、事業上の取引を数字にする
- 税理士が確認し、決算や申告に使える数字へ整える
- 数字を比較し、社長との会話によって事業の実態と結びつける
会計ソフトとの連携は、記帳の負担を減らすうえでは有効です。ただし、連携された数字が正しいか、その数字が会社の実態をどう表しているかまでは、会計ソフトだけでは判断できません。
私は、顧問料を税理士の「頭の借り賃」のようなものだと考えています。
これは、質問のたびに税法の知識を教えてもらうための料金という意味ではありません。
会社の過去の数字やこれまでの経緯を継続的に把握している人を社外に置き、必要なときに同じ前提から相談できる状態を確保するための料金です。
数字を共有することで、一般的なメリットにつながる
当事務所では、損益推移表と売上の3期比較を使い、自社の過去と現在を比較していただきます。
比較によって数字の変化を見つけ、その時期に事業上どのような出来事があったのかを社長に確認します。
たとえば、売上が増えた理由が大口案件の受注なのか、値上げなのか、営業日数の増加なのかによって、今後の見通しは変わります。利益率が下がった場合も、仕入価格の上昇なのか、人員の先行採用なのか、一時的な外注費なのかで判断は異なります。
資料を渡すだけでなく、数字と事業上の出来事を会話で結びつけることが必要です。
期の半分を超えたあたりからは、それまでの実績、過去の推移、今後の売上や支出の見通しをもとに、年間利益と納税額を予測します。
そのうえで、納税後に資金がどの程度残りそうか、予定している支出を実行できるか、節税・利益・資金繰りのどれを優先するかを考え、決算の着地点を整理します。
このように期中から数字を確認していれば、必要な節税を期限内に検討できます。融資を申し込む場合にも、売上や利益が変化した理由、資金が必要な理由、返済の見通しを説明しやすくなります。
税務調査でも、税理士がついていること自体が有利に働くわけではありません。取引の事実、会計処理、証拠資料の関係を整理し、税務署との疑念や行き違いを減らせることに意味があります。
社長自身がまだ見えていなかった会社の状態や、うまく言葉にできていなかった強み・課題が、数字との比較によって表れることもあります。
税理士は、会社の事業を作り出したり、社長の代わりに経営判断をしたりする人ではありません。
社長が知っている事業の実態を会計数字へ置き換え、会計数字を社長や外部の相手に分かる言葉へ戻す、数字の通訳のような役割です。
顧問税理士をつけても、会社側の負担はなくならない
顧問税理士をつけることには、デメリットもあります。
顧問料
まず、顧問料がかかります。
法人の税務申告を税理士へ依頼する場合、顧問契約がなくても決算申告料は必要です。顧問契約では、その申告料に一定額を加えることで、期中の数字の確認、納税予測、打合せなどを受けることになります。
専門の経理・財務人材を常勤で雇うより負担を抑えながら、必要な数値管理機能を社外に持つ方法と考えられますが、申告だけを安く依頼したい会社には割高です。
手間、そして実行
また、自計化する場合には、会社側に会計入力の手間が残ります。記帳代行を依頼する場合でも、請求書や領収書などの資料を渡し、不明な取引について説明する必要があります。
税理士が会社に関するすべての手続きを行うわけでもありません。社会保険や労働保険、登記などは、自社で対応するか、社労士や司法書士などへ別途依頼することになります。
数字のフィードバックを受けるにも手間がかかります。
社長自身が打合せに参加し、事業の状況を伝え、数字の説明を聞かなければ、税理士は会社の実態を把握できません。利益とキャッシュの違いなど、社長にも最低限の知識は必要です。
そして、税理士が数字を整理し、選択肢やリスクを示しても、それだけで会社が変わるわけではありません。
値上げ、経費の見直し、融資、設備投資、納税資金の確保などを最終的に判断し、実行するのは社長です。
まとめ
小規模企業が顧問税理士をつける意味は、申告書を作ってもらうことだけではありません。
社内では雇いにくい専門の経理・財務人材を社外に持ち、会社の数字を継続的に把握している税理士と、その数字を材料に会話できることにも意味があります。
ただし、顧問契約を結べば、経理や経営判断をすべて税理士へ任せられるわけではありません。
会社側にも資料の提出、打合せ、最低限の理解、判断と実行が必要です。
申告だけを依頼したいのか。それとも、会社の数字を共有し、納税・資金繰り・経営判断へ使いたいのか。
顧問税理士が必要かどうかは、その違いから考えると分かりやすいでしょう。

