相続税を考えるときは、まず「何が相続税の対象になるのか」を整理する必要があります。
相続税の対象となる財産は、「実態」で考えるため、一般的なイメージとずれることがあるためです。
そのギャップを埋めることが、相続税を考える一歩となります。
この記事では、相続税の課税財産・非課税財産・債務控除の基本を整理します。
なお、この記事では、相続人等が日本国内に住所を有する一般的なケース、いわゆる居住無制限納税義務者を前提に説明します。国外財産、非居住者、制限納税義務者などの論点は、この記事では扱いません。
- 相続税の対象になる財産
- 相続税の対象にならない非課税財産
- 生命保険金や死亡退職金が相続税でどう扱われるか
- 名義財産や会社への貸付金が問題になる理由
- 生前贈与が相続税に関係する場合
- 借入金や未払金、葬式費用を差し引ける場合
- 資産形成、住宅取得、中小企業経営と相続税のつながり

相続税の課税財産・非課税財産・債務控除の全体像
相続税は亡くなった人(被相続人)の財産に課税されますが、「財産」の範囲が相続税法ではイメージより広いため注意が必要です。
一定の保険金や贈与などが課税されることはよく知られていますが、家族名義の財産でも実態が亡くなった人(被相続人)のものは課税されます。
一方で、亡くなった人(被相続人)の財産でも、政策的な観点から一定のものは非課税とされ、一定の債務も課税対象から差し引かれます。
大まかには、次のようなイメージです。
課税対象になる財産
- 非課税財産
- 債務・葬式費用
+ 一定の生前贈与
= 相続税の計算対象になる財産
上記の相続税の計算対象となる財産が「基礎控除※」を超える場合、相続税の申告・納税が必要になる可能性があります。
※3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続税の申告が必要かどうかで、相続手続の流れが大きく変わるため、まず「相続税の対象になる財産」を正しく把握する必要があります。
相続税の対象になる財産
相続税の対象になる財産は、民法上の財産だけでなく「みなし相続財産」も含まれます。
ここでは、一般的に問題になりやすいものを整理します。
預貯金・不動産・有価証券など
相続税の対象になる代表的な財産は、次のようなものです。
- 現金
- 預貯金
- 土地
- 建物
- 上場株式
- 非上場株式
- 車
- 貴金属
- 骨董品
- 家財
- 事業用資産
- 貸付金
一般家庭では、自宅不動産、預貯金、生命保険、証券口座などが中心になることが多いです。
資産形成をしている家庭であれば、上場株式や投資信託などの有価証券も相続税の対象になります。
また、中小企業経営者の場合には、自社株式(非上場株式)、会社への貸付金なども確認が必要です。
土地は登記簿だけでは把握できない
土地は登記簿から把握することが多いですが、借地権など賃貸借に係る権利は登記簿に表れません。
また、土地は各種の法令等により様々な制限を受け、それにより評価が変わります。
さらに、貸し借りの状況によっても評価が変わるため、少なくとも登記簿だけでなく貸し借りの状況がわかるように整理することが必要です。
経営している会社への貸付金
中小企業の経営者は、経営のため会社へお金を貸し付けることがあります。
経営者の感覚からすると、何年も前のことで貸したことさえも忘れているかもしれませんが、会社の貸借対照表では「役員借入金」や「短期借入金」などに含まれていることがあり、社長個人から見ると会社に対する貸付金です。
会社を経営している場合、個人の相続財産は、預金や自宅だけでなく、会社に関わるものも対象となるケースがあるため注意が必要です。
名義財産
名義は家族だけれど、実態は亡くなった方のもの。いわゆる名義財産です。
相続税は実態を優先して課税するケースが多いため、名義財産も亡くなった方の相続税の対象となり得ます。
原資が誰のものか、誰が管理していたか、誰が自由に使えたか、贈与が成立していたかなど複合的な判断が必要なため、それらも整理することが必要です。
生命保険金・死亡退職金などのみなし相続財産
相続税は実態を優先するため、相続税の課税対象となる財産は、民法上の財産よりも範囲が広く設定されています。
被相続人の死亡により支給されたり、支払われたりする一定の保険金や退職金も相続税の対象です。
これらは、民法上の遺産分割の対象となる財産と、相続税の課税対象となる財産の範囲が一致しないことを示す代表例です。取扱いが他の財産と異なるため、相続税の対象から漏らさないよう注意が必要です。
相続税の対象にならない財産
相続財産の中には、相続税の対象にならないものもあります。
代表的なものは、次のようなものです。
- 墓地
- 墓石
- 仏壇
- 仏具
- 一定の公益目的に使われる財産
- 生命保険金の非課税枠
- 死亡退職金の非課税枠
墓地や墓石、仏壇、仏具などは、原則として非課税ですが、骨董品や投資の対象として保有しているもの等は課税される可能性があります。
また、生命保険金や死亡退職金については、相続人が取得する場合に一定の非課税枠(500万円×法定相続人の数)があります。
非課税枠を超える部分は相続税の対象になります。
生前贈与が相続税に関係する場合
相続や遺贈で被相続人から財産を取得した者が、被相続人の死亡前7年以内(※経過措置あり)に、被相続人から暦年課税贈与を受けた場合には、その贈与財産は相続税の課税対象となります。
相続時精算課税を選択している場合には、その選択後に受けた贈与財産は、贈与者の相続時に相続税の計算に反映されます。なお、令和6年分以後の贈与については、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられています。
「贈与税が発生しているか」は関係なく、要件を満たせば相続税の課税対象となってしまうため、生前に贈与している場合は、「いつ」「誰から誰に」「何を」「いくら」「どちらの贈与制度で」贈与しているか整理しておきましょう。
債務控除と葬式費用
相続税は「正味の財産」に課税することとなっているため、被相続人の債務を差し引きます。これを債務控除といいます。
また、葬式費用は(被相続人の)債務そのものではありませんが、相続税の計算上、一定のものは遺産総額から差し引くことができます。
債務控除の対象になるもの
債務控除の対象となるのは、被相続人の債務で一定のもので、具体的には以下のようなものです。
- 借入金
- 未払医療費
- 未払税金
- 未払金
- 買掛金
- 事業上の債務
ただし、被相続人(亡くなった人)の債務でなければなりませんので、相続人等の固有債務は対象とはなりません。
相続人の借入金が不可なのは分かりやすい例ですが、遺言執行費用なども相続人等の固有債務と考えられるので債務控除できないため注意が必要です。
葬式費用
葬式費用は、厳密には被相続人の債務そのものではありませんが、日本の葬式事情などを考慮して債務控除が認められています。
代表的なものは、次のようなものです。
- 葬儀会社への支払い
- 通夜、告別式に通常必要な費用
- 火葬、埋葬に関する費用
- 寺院等への支払い
控除できないもの
債務控除や葬式費用として差し引けないものの例は、次のようなものです。
- 相続人自身の借金
- 相続開始後に発生した相続人固有の費用
- 香典返し
- 初七日、四十九日などの法要費用
- 墓地、墓石の購入費用
- 非課税財産に関する未払債務
- 確実でない保証債務
また、債務控除は原則として相続人(包括受遺者を含む)しか適用できません。
資産形成・住宅取得・中小企業経営との関係
相続税の課税財産・非課税財産・債務控除は、相続が起きた後だけの話ではありません。
資産形成、住宅取得、中小企業経営とも関係します。
資産形成との関係
資産形成で増やした財産は、将来の相続財産になります。
特に夫婦・親子間では贈与の観念が薄いため、どちらの財産かが不明確なケースもあり得ます。
増やすことだけでなく、誰に帰属するものなのかを整理しておかないと、資産形成の出口の一つである相続で問題を抱える可能性があります。
住宅取得との関係
自宅不動産は、相続財産の中で大きな割合を占めることがあります。
相続税が発生するのか、相続税を支払っても住み続けるのか、相続前に売却してしまうのか、さまざまな出口があります。
いずれにせよ、自宅取得時の資料は保管しておき、相続を含めた出口をどうするか、税も含めて検討しておくことが重要です。
中小企業経営等との関係
中小企業経営者や個人事業主の場合、事業に関わる財産も相続対象として考慮しなければなりません。
日々の経営では、どうしても「損益」を中心に追ってしまうため、「会社や事業にどのような財産・債務があるのか」「それが相続税の課税対象となるのか」は見逃してしまいがちです。
会社の決算書、特に貸借対照表を精査して、相続財産になるものはないか、立ち止まって確認してみましょう。
まとめ
相続税を考えるときは、まず何が相続税の対象になるのかを整理することが重要です。
亡くなった人名義の預貯金や不動産だけでなく、生命保険金、死亡退職金、名義財産、会社への貸付金、生前贈与なども相続税の対象となることがあります。
一方で、墓地や仏壇などの非課税財産、生命保険金や死亡退職金の非課税枠、借入金や未払金、一定の葬式費用など、相続税の計算上差し引けるものもあります。
相続税は、財産を単純に足し合わせるだけではなく、課税対象になる財産、対象にならない財産、差し引ける債務、加算される生前贈与を整理して、正味の財産を確認する必要があります。
資産形成、住宅取得、中小企業経営は、将来の相続税ともつながっています。相続税対策を考える前に、まずは財産・債務・贈与・名義を整理しておくことが大切です。

